「辞めます」。
たったこの四文字が、どうしても言えない。口を開きかけては、また飲み込んでしまう。
もしあなたが今そうなら、よくわかります。私もそうでした。
私はこれまで7回、会社を辞めてきました。それでも毎回、辞めると切り出す瞬間は怖かった。なかでも一番言い出せなかったのが、25歳の頃。初めて勤めた会社を辞めるときでした。
この記事では、退職を言い出せない・怖いという気持ちの正体を整理したうえで、言いやすくするための準備と、そのまま使える切り出し方をお伝えします。最後に、当時の私が「嘘をついてまで」辞めた話と、その経験から伝えたいことも正直に書きます。
退職を言い出せないのは、あなたが弱いからではない
最初に、これだけは言わせてください。
辞めると言い出せないのは、あなたの意志が弱いからでも、覚悟が足りないからでもありません。人は、これから起きる嫌なことを想像すると、体が自然にブレーキをかけます。 ごく当たり前の反応です。
特に、日頃から上司に強く当たられている人ほど、「辞めます」の一言で何が起きるかを生々しく想像してしまう。怒鳴られるかもしれない。引き止められて言いくるめられるかもしれない。気まずい空気が続くかもしれない。その想像が怖くて、口が動かなくなるんです。
私の場合が、まさにそうでした。
25歳、毎日怒られていた私が、辞められなかった理由
初めて勤めたのは、不動産の会社でした。営業職でしたが、私はまったく成績が出せず、毎日のように怒られていました。
そんな状態だったので、「辞めたい」という気持ちは、かなり早い段階からありました。でも、言い出せなかった。理由は、はっきりしています。
辞めると言ったら、また怒鳴られる。言いくるめられて、結局辞められなくなる。 そう思うと、どうしても切り出せなかったんです。
毎日叱られている相手に、自分から「辞めます」と切り込んでいく。それは当時の私には、ものすごくハードルの高いことでした。怒られることへの恐怖が、辞めるという当然の行動まで縛っていたわけです。
もしあなたが似た状況なら、その怖さは痛いほどわかります。だからこそ、次に「言いやすくするための準備」をお伝えします。
言いやすくするための、5つの準備
怖さをゼロにはできません。でも、準備によって「言いやすさ」は確実に上げられます。私が7回の経験で身につけたコツです。
1. 退職の意思を「固定」しておく
迷ったまま伝えると、引き止めに揺らぎます。「相談」ではなく「報告」する、と心の中で決めておきましょう。
2. 伝える相手とタイミングを決める
基本は直属の上司に。繁忙期のピークや、相手の機嫌が悪いタイミングは少し外すと、話がこじれにくくなります。
3. セリフを一言だけ用意する
長い説明はいりません(理由は後述しますが、詳しく言う義務はありません)。「ご相談したいことがあります。退職を考えています」この一言を準備しておくだけで、口が動きやすくなります。
4. 退職届を先に用意しておく
口頭で言うのが怖いなら、書面を先に準備しておくと心強い。いざとなれば渡せる、という保険があるだけで落ち着きます。
5. 「辞めるのは権利」だということを思い出す
退職は、会社の許可がいるものではありません。この前提を持っておくと、引き止められても揺らぎにくくなります。
そのまま使える、切り出しのセリフ
実際の場面で使える言い回しを置いておきます。ポイントは、過去形・決定形で伝えることです。
- 「お話があります。一身上の都合で、退職させていただきたいと考えています」
- 「退職を決めました。〇月いっぱいで、と考えています」
「考えています」「決めました」と、すでに固まっていることを示すのがコツです。「辞めたいんですけど…」と相談口調になると、引き止めの隙を与えてしまいます。
引き止められたときの具体的な断り方は、別の記事で詳しくお伝えします。
関連記事(予定):「しつこい引き止めの断り方|情に流されず辞める言い方」
退職理由は、正直に言わなくていい
ここで、当時の私がいちばん知りたかったことを書きます。
退職理由を、会社に正直に伝える義務はありません。
法律上、退職の理由を会社に説明する義務はなく、退職届に書く理由も「一身上の都合」で足ります。「人間関係がつらい」「上司が怖い」といった本当の理由を、わざわざ正直に話す必要はないんです。
むしろ、ネガティブな本音をそのまま伝えると、「改善するから残ってほしい」と引き止めの口実を与えてしまうこともあります。だから、理由は「一身上の都合」とだけ伝えるのが、スムーズに辞めるコツです。
これを、25歳の私が知っていたら。話は、だいぶ違ったはずなんです。
私が「嘘」で逃げた話。でも、それは必要なかった
正直に告白します。
結局あの時、私は嘘をついて辞めました。「知り合いの税理士事務所に転職する。税理士を目指します」と。本当は、そんな予定はありませんでした。ただ、毎日怒ってくる上司に対して、反論できないような、もっともらしい理由が欲しかったんです。
「キャリアアップのため」という前向きな嘘なら、怒られない。引き止められない。そう思って、とっさにこしらえた作り話でした。
その嘘で、私はなんとか辞めることができました。だから、当時の自分の選択を、今さら全否定するつもりはありません。追い詰められた人間が、自分を守るために知恵をしぼった結果だったからです。
でも、7回の転職を経た今、はっきり思うことがあります。
あの嘘は、本当はいらなかった。
さっき書いたとおり、退職に詳しい理由は必要ありません。「一身上の都合で退職します」。それだけで、法的にも実務的にも、十分に通用したんです。怒られるのが怖くて精巧な作り話を用意しなくても、たった一言で、私は辞められたはずでした。
それに、嘘にはリスクもあります。「税理士事務所に転職」のような具体的な嘘は、後でばれると気まずいトラブルの種になります。狭い業界なら、なおさらです。
だから、もしあなたが今、私と同じように「もっともらしい理由」をひねり出そうとしているなら、こう言いたい。そんなものは、用意しなくて大丈夫です。 あなたを守る言葉は、「一身上の都合」の六文字で、もう足りています。
どうしても言えないなら、無理に言わなくてもいい
ここまで「言い方」の話をしてきましたが、最後に。
準備をしても、セリフを覚えても、それでもどうしても言えない。顔を見るだけで体がこわばる。
そういう状態なら、無理に自分の口から言わなくてもいい方法もあります。
ひとつは、退職届を郵送するなど、書面で意思を示す方法。もうひとつが、退職代行という選択肢です。あなたの代わりに退職の意思を会社へ伝えてくれるので、怖い相手と直接やり取りせずに辞められます。
ただし退職代行は、運営元によって安全性が大きく変わります。選ぶなら「弁護士運営」か「労働組合運営」のサービスを。詳しくは別記事でまとめています。
関連記事(予定):「退職代行は甘えなのか?経験者の本音」/「退職代行の評判・口コミ|失敗しない選び方」
そして、もし「言えない」の背景に、心や体の限界があるのなら。辞め方を考えるより先に、まず休んでください。ひとりで抱え込まず、こころの耳(厚生労働省)などの相談窓口や、心療内科を頼ってほしいと思います。
まとめ:あなたを守る言葉は、もう足りている
最後に、要点を整理します。
退職を言い出せないのは、弱さではなく自然な反応です。準備とセリフで「言いやすさ」は上げられますし、退職理由を正直に話す義務はなく、「一身上の都合」で十分。私のように、嘘の理由をひねり出す必要はありません。
そして、どうしても自分で言えないなら、書面や退職代行という手もあります。怖いなら、無理に正面から戦わなくていいんです。
25歳の私は、嘘をついてまで、ようやくあの会社を抜け出しました。遠回りでした。あなたには、もっとまっすぐな一歩を選んでほしいと思っています。
あなたの最初の一歩を、この研究所はいつでも応援しています。
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