「もう辞めたい」。
そう思っているのに、なぜか動けない。退職届の一枚が、どうしても出せない。もしあなたが今その状態なら、まず言わせてください。
それは、あなたが弱いからではありません。
そう言い切れるのは、私自身が長いあいだ「自分は弱い人間だ」「逃げ癖がついているだけだ」と思い込んできたからです。その思い込みが間違いだったと気づくまでに、私は20年以上かかりました。
私はこれまで7回、会社を辞めてきました。不動産の営業も、運送も、自動車工場のラインも経験しました。スーツも作業着も着ました。40代になった今だから、ようやく落ち着いて振り返れる話があります。
この記事では、「辞めたいのに辞められない」状態がなぜ起きるのかをタイプ別に整理し、自分で切り出す方法から、どうしても無理なときの手段まで、後悔しない辞め方をひととおりお伝えします。急かしません。あなたのペースで読んでください。
なぜ「辞めたいのに辞められない」のか
辞めたい気持ちはあるのに動けないとき、たいてい原因は一つではありません。いくつかが絡まっています。まずは、自分がどのタイプに近いかを見てみてください。複数当てはまっても大丈夫です。
タイプ1:申し訳なさで動けない
「お世話になったのに、辞めるなんて言えない」。これは、私自身が何度も縛られた感情でした。
教えてくれた先輩、拾ってくれた上司。その顔が浮かぶと、辞めると口に出すこと自体が裏切りのように感じてしまう。まじめで責任感が強い人ほど、この申し訳なさに足を取られます。
でも、よく考えてみてほしいんです。会社とあなたは、労働に対して給与を払う、という対等な契約関係です。恩を感じるのは自然なことですが、その恩は、あなたの心や体を犠牲にしてまで返すものではありません。
タイプ2:辞めると言うのが、ただ怖い
上司の反応が想像できなくて怖い。引き止められたら断れる自信がない。理屈ではなく、切り出す場面そのものが怖い、というタイプです。
これも、おかしなことではありません。日常的に高圧的な態度を取られていれば、「辞めます」の一言が喉の奥でつかえて当然です。
タイプ3:辞めたあとが不安
次の仕事が決まっていない。お金が続くか不安。将来が見えないことへの恐れで、今の場所にしがみついてしまうタイプです。
タイプ4:忙しすぎて、辞める準備ができない
これは、私が若い頃に本当に追い込まれた状態でした。少し詳しくお話しします。
「辞める時間すら奪われる」という悪循環
20年ほど前、不動産や運送の業界で働いていた頃の話です。
当時の私は、営業成績が振るわず、毎日のように残業し、休日も出勤していました。しかも、その残業も休日出勤も、いわゆるサービス残業。給料は低いまま、時間だけがどんどん奪われていきました。
そうなると、何が起きるか。転職活動をする時間が、まったく取れないんです。
辞めたい。でも次を探す時間がない。次が決まらないから辞められない。辞められないから、また時間を奪われる。この出口のない悪循環の中で、私はすり減っていきました。
正直に言うと、当時は今ほど「メンタル不調」や「パワハラ」といった言葉が知られていませんでした。つらくても、それを表す言葉すら持っていなかった。だから私は、ただ「自分が弱いせいだ」「根性が足りないんだ」と、自分を責めることしかできませんでした。
この「自分が弱いだけ」という思い込みは、その後もずっと、私の中に居座り続けました。
「逃げ癖」だと思っていた。本当は、違った
時は流れて、3年ほど前。前の職場でのことです。
その会社は、サービス残業もなく、どちらかといえばホワイトな環境でした。だから余計に、自分でも戸惑いました。環境は悪くないはずなのに、ある時期から、心と体に明らかな異変が出はじめたんです。
きっかけは、人間関係のこじれと、それにともなう待遇の大きな変化でした。詳しいことはここでは伏せますが、信頼していた相手との関係が崩れた、とだけ言っておきます。
その頃から、チャットやメールの返信が、どうしても返せない。会議に出ても、話している内容が頭にまったく入ってこない。明らかに、仕事に支障が出るようになっていました。
それでも私は、また「自分が弱いからだ」「逃げ癖だ」と思っていました。20年前と同じです。
でも、さすがにおかしいと感じて、精神科を受診しました。診断は、適応障害でした。
そのとき、医師から話を聞きながら、私はようやく気づいたんです。
20年前のあのつらさも、もしかしたら、ただの「弱さ」じゃなかったのかもしれない。
ずっと「逃げ癖」だと責め続けてきた過去の自分の苦しさは、根性の問題ではなく、心が限界を超えていたサインだったのかもしれない。診断を受けて初めて、私はそう思えました。
長いあいだ自分を責めてきた人間にとって、これは、肩の荷が下りるような瞬間でした。
あのとき、もっと早く受診すればよかった
適応障害は、環境のストレスがその人の対応できる範囲を超えたときに起きる、心と体の不調です。仕事が原因の場合、出勤前や職場に着いたときに症状が強く出て、休みの日には少し軽くなる、という波があるのも特徴とされています。
私がいちばん後悔しているのは、仕事に支障が出るところまで我慢してから受診したことです。
支障が出るより、ずっと前から、私の心はサインを出していたはずなんです。眠れない、朝がつらい、何も楽しくない。そういう小さなサインを「みんな我慢している」「自分が甘いだけだ」と押し込めているうちに、気づけば限界を超えていました。
適応障害は、早く気づいて対処するほど、悪化や慢性化を防ぎやすいと言われています。だからこそ、当時の自分に伝えたい。そして、今のあなたにも伝えたいんです。
「おかしいな」と感じた時点が、受診していいタイミングです。 支障が出るまで待つ必要は、まったくありません。そして、つらさを「自分の弱さ」だと決めつけないでください。それは、専門家に相談していい、立派なサインです。
もし今、あなたが似た状態にあるなら、辞める辞めないの前に、まず専門家に相談することを考えてください。この記事の最後に、相談できる窓口をまとめておきます。
辞められないときに取れる、3つの道
ここからは、具体的な選択肢の話です。「辞めたいのに辞められない」状態から抜け出す道は、大きく3つあります。
1つ目は、自分で円満に切り出す道。
余力があり、関係を壊したくないなら、これが基本です。
2つ目は、第三者の手を借りる道。
自分ではどうしても言えない、引き止めが激しい、もう連絡を取りたくない。そういうときは、退職代行という選択肢があります。
3つ目は、辞める前に、まず休む・相談する道。
心身が限界に近いなら、これが最優先です。
それぞれ見ていきます。
知っておくと心が軽くなる「退職の自由」
具体策の前に、ひとつだけ、知っておいてほしい大事なことがあります。
そもそも、辞めること自体は、あなたの権利です。
期間の定めのない雇用契約(多くの正社員がこれにあたります)の場合、民法627条という法律で、退職を申し入れてから2週間が経過すれば雇用契約は終了する、と定められています。会社の承諾は必要ありません。
ここがポイントなのですが、たとえ就業規則に「退職は1か月前に申し出ること」と書かれていても、法律上は、原則として民法のほうが優先されると考えられています。
つまり、「辞めさせてもらえない」というのは、本来あり得ないことなんです。引き止められても、強く言われても、辞める権利そのものは、あなたの側にあります。
このことを知っているだけで、切り出すときの足のすくみ方が、少し変わってくるはずです。
※ただし、契約社員など雇用形態によって扱いが異なる場合や、円満に辞めたいなら就業規則に沿って早めに伝えたほうがよい場面もあります。個別の事情で不安があるときは、後述の労働相談窓口や専門家に確認してみてください。
自分で切り出すときの順番
円満に辞める道を選ぶなら、いきなり感情で動かず、順番を意識すると楽になります。
まず、辞める意思を固めて、伝える相手(直属の上司が基本です)と、伝えるタイミングを決めます。繁忙期のピークを少し外すなど、相手の状況も少し考えると、話がこじれにくくなります。
次に、伝え方です。長々と理由を語る必要はありません。「一身上の都合により」で十分です。引き止められても、相談ではなく報告のつもりで、「退職を決めました」と過去形・決定形で伝えるのがコツです。
具体的な切り出しのセリフや、しつこい引き止めの断り方は、別の記事で詳しくお伝えしています。
関連記事(予定):「退職を言い出せない・怖いときの対処法」/「しつこい引き止めの断り方」
どうしても自分で言えないなら、退職代行という手がある
「順番はわかった。でも、それでも無理だ」。
その気持ちも、痛いほどわかります。私も、頭ではわかっていても体が動かない時期がありました。
そういうときの選択肢が、退職代行です。あなたの代わりに退職の意思を会社に伝えてくれるサービスで、うまく使えば、上司と直接やり取りしないまま辞めることができます。
ただし、ここで一つだけ、強く注意してほしいことがあります。
退職代行は、運営元によって、できることと安全性が大きく変わります。 選び方を間違えると、トラブルに巻き込まれることもあります。
安全に使うなら、「弁護士が運営している」か「労働組合が運営している」サービスを選んでください。この2つは、退職条件の交渉などを法的に問題なく行えます。逆に、それ以外の民間業者が「会社と交渉します」とうたっている場合は、注意が必要です。
退職代行の選び方は、サイトの信頼にも関わる大事なテーマなので、業者の比較とあわせて別記事で詳しくまとめています。
関連記事(予定):「退職代行は甘えなのか?経験者の本音」/「退職代行の評判・口コミ|失敗しない選び方」
でも、その前に。心が限界なら、まず休んでください
ここまで辞め方の話をしてきましたが、最後に、いちばん大事なことを。
もしあなたが今、私がかつてそうだったように、仕事に支障が出るほど追い詰められているなら
辞める手続きより先に、まず自分の心と体を守ってください。
辞めるかどうかは、少し回復してからでも、ちゃんと決められます。順番を間違えないでください。
ひとりで抱え込まず、相談できる場所があります。
- こころの耳(厚生労働省):働く人のメンタルヘルス情報・相談窓口の総合サイト
- まもろうよ こころ(厚生労働省):電話・SNSなど、いろいろな相談方法から選べます
- 勤務先に産業医がいる場合:中立の立場で相談でき、面談内容が査定や昇進に響くこともありません
- 心身の不調が続くとき:早めに心療内科・精神科を受診してください。「おかしいな」と感じた時点で、受診していいんです
これは、あなたが弱いから勧めているのではありません。「自分は弱い」と20年以上も思い込み、限界まで我慢してしまった私からの、心からのお願いです。
まとめ:あなたのペースで、最初の一歩を
最後に、この記事の要点を整理します。
辞められないのは、あなたが弱いからではありません。申し訳なさ、恐怖、不安、忙しさ。
原因を整理すれば、対処の道は見えてきます。そして、辞めること自体はあなたの正当な権利です。
自分で切り出せるなら、順番を意識して。どうしても言えないなら、弁護士か労働組合が運営する退職代行という手があります。そして何より、心が限界なら、辞める前にまず休んで、相談してください。
かつての私のように、つらさを「弱さ」や「逃げ癖」だと決めつけて、ひとりで抱え込まないでください。辞めることは、逃げではありません。自分の人生を、自分の手に取り戻すことです。
あなたの最初の一歩を、この研究所はいつでも応援しています。
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