「退職代行を使いたい。でも、それって甘えなんじゃないか」
そう思って、検索窓に「退職代行 甘え」と打ち込んだあなたへ。
最初に、正直に書いておきます。私は退職代行を、一度も使ったことがありません。 これまで7回、会社を辞めてきましたが、その全部を自分の口で切り出してきました。
つまり、「使った経験者」が「使ってよかったよ」と言う立場ではありません。「使わずに、自分で何度も切り出してきた人間」として、この記事を書いています。
そんな私が、なぜ「退職代行は甘えではない」と思うのか。7回の経験から見えた、当事者目線の本音をお伝えします。
なぜ退職代行は「甘え」と言われがちなのか
まず、なぜ「甘えだ」「ずるい」という声が出るのか、その理由を整理します。だいたい次の3つに分かれます。
1. 「自分の言葉で伝えるべき」という価値観
「お世話になった会社に、自分から辞めると伝えるのが筋だ」「人として、ちゃんとケジメをつけるべきだ」。昔ながらの価値観です。
特に、自分自身が辛い思いをして自力で辞めた経験のある人ほど、「自分はやってきたのに、なぜあの人は楽をするんだ」という気持ちが出やすい。これは人として自然な反応です。
2. 「お金で解決するのはずるい」という感覚
退職代行の料金は、安いものでも2〜3万円、弁護士運営なら5万円以上することもあります。「自分は一円も払わずに辞めたのに、お金で済ませるなんてずるい」と感じる人もいます。
3. 「逃げ癖がつく」という心配
「一度こういうサービスを使うと、次も使ってしまう。困難から逃げる癖がつく」。これは、本人のためを思って言う人もいますが、結局は「もっと頑張れ」という説教に近いケースも多い気がします。
3つとも、言いたい気持ちは分かります。でも、これらは全部、「言える側」「払わなくても辞められた側」の論理です。「言えない側」の立場には立っていません。
実際に退職代行を使う人が抱える事情
退職代行を使う人は、決して「ちょっと面倒だから誰かに任せよう」と気軽に判断しているわけではありません。
私が7回の転職を通じて見聞きしてきた中で、使う人の事情は、だいたいこんなところに集約されます。
上司が高圧的で、口を開く前に体がすくむ
毎日怒鳴られている人にとって、「辞めます」と切り出す場面は、想像するだけで動悸がします。これは意志の問題ではなく、心と体が拒否反応を起こす状態です。
引き止めが激しくて、自分では断れない
「あと半年だけ」「お前がいないと回らない」「今辞められると損害が出る」。こういう引き止めを目の前にすると、断る気力がそもそもありません。情に流されて、結局辞められなかった、という人もたくさん見てきました。
心身が限界で、出社すらできない
うつや適応障害で、もう会社に足を運ぶことができない。電話に出ることもできない。この状態の人に「自分の口で言いに行け」と言うのは、骨折した人に「走って病院に行け」と言うのと同じです。
家族の生活がかかっていて、頭が回らない
辞めた後の生活費。家族にどう説明するか。次の仕事はどうするか。考えなければいけないことが多すぎて、目の前の「辞めると言う」というシンプルな行動にすら、頭が向かなくなることがあります。
これは、私自身の経験から書いています。
25歳の私が、退職代行を「使えなかった」理由
ここで、私自身の話をします。
20年ほど前、初めて入った正社員の会社。不動産の営業職でした。当時の私は25歳。実は、その頃すでに結婚していて、家族もいました。
営業成績は振るわず、毎日のように怒られていました。「辞めたい」という気持ちは、入社して数か月で生まれていたと思います。でも、辞めると言い出すまでに、長い時間がかかりました。
理由は、はっきりしています。罪悪感です。
お世話になった上司に申し訳ない。教えてくれた先輩に申し訳ない。何より、自分の代わりがすぐには見つからないだろう会社に、迷惑をかけることへの申し訳なさ。その気持ちが、私の口を塞いでいました。
それと同時に、頭の中はパンクしていました。
辞めたとして、次の仕事はどうしよう。生活費はどうしよう。妻にどう説明しよう。子供のために、これからどう動けばいいのか。考えなきゃいけないことが多すぎて、目の前の「辞めると言う」という行動に、エネルギーを回す余裕がなかったんです。
毎日怒鳴られて、罪悪感に縛られて、家族のことで頭がいっぱいで。今思えば、あの頃の私が一番欲しかったのは、「辞めると言うこと自体を、誰かに代わってもらえる選択肢」だったかもしれません。
でも、当時はその選択肢が、そもそも存在しませんでした。
なぜ「使えなかった」と言えるのか|退職代行の歴史
「使わなかった」のではなく、「使えなかった」と書いたのには理由があります。
退職代行サービスが日本で本格的に登場したのは、2017年頃のことです。「EXIT」というサービスが、低価格で退職の意思を会社に伝える事業を始めたのが、現在につながる退職代行の起点とされています。
つまり、私が25歳だった20年前には、現代的な退職代行サービスは存在していなかったんです。あったとしても、弁護士に高額な費用を払って依頼する、ごく一部の特殊なケースだけ。一般的な労働者が気軽に使えるサービスではありませんでした。
だから当時の私は、選びようがなく自分で切り出すしかなかった。涙が出るほど怖かったし、罪悪感で胸が潰れそうでしたが、他に道がなかったんです。
もし当時、今の退職代行のようなサービスがあって、しかも誰かが「使っていいよ」と言ってくれていたら。あの頃の私は、間違いなく使っていたと思います。
そして、それを「甘え」だとは、私自身、絶対に言いたくありません。
7回辞めてきた私の結論:退職代行は「甘え」ではない、ただし「ケース」による
長くなりましたが、私の結論を書きます。
退職代行は、甘えではありません。
ただし、すべての人に勧めるわけでもありません。「使うべき場面」と「自分で切り出した方がいい場面」があると、私は思っています。
7回の経験を踏まえて、私が考える「使うべき場面」「自分でやれる場面」の判断軸を、整理してお伝えします。
退職代行を使った方がいい4つのケース
私が「こういう状況なら、迷わず使っていい」と思うケースは、次の4つです。
ケース1:頭がいっぱいで、何も考えられない状態
辞めた後の生活費、家族の生活、次の仕事、今抱えている案件。考えなければいけないことが多すぎて、目の前の「辞めると言う」という行動にエネルギーが回らない。
これは、25歳の頃の私自身が、まさにそうでした。あの状態の人に「自分で言いに行け」と言うのは、現実的じゃありません。退職代行で「辞める」というタスクを一つ手放せば、残りの判断に集中できます。
ケース2:上司や会社が高圧的で、顔を見るだけで体がすくむ
毎日怒鳴られている。パワハラを受けている。退職を切り出した瞬間、何を言われるか想像もつかない。こういう状態で「自分で言え」というのは、心の傷を深めるだけです。
ここで無理をして、心を壊してしまうのが一番怖い。退職代行は、自分を守るための盾です。
ケース3:引き止めが激しくて、断れる自信がない
「お前がいないと回らない」「あと半年だけ」「人として無責任だ」。こういう引き止めに、情で押し切られてしまう自信のある人。退職代行を使えば、物理的にやり取りが発生しないので、引き止めを受ける場面そのものをなくせます。
ケース4:心身が限界で、もう出社できない
うつ、適応障害、その他の不調で、会社に足を運ぶことすらできない。電話に出ることも難しい。この状態の人に必要なのは、辞める辞めないの議論より、まず休むこと、そして専門家を頼ることです。退職代行は、その「まず休む」を実現するための手段になります。
自分で切り出した方がいいケース
逆に、私が「できるなら自分で切り出した方がいい」と思うケースもあります。
- 上司や同僚との関係が良好で、円満に辞められそうな見込みがある
- 心身に余裕があり、考える時間も取れる
- 次の業界が同じで、辞め方が今後の評判に影響しそう
- 引き止めに毅然と「ノー」と言える自信がある
こういう状況なら、自分で切り出した方が、後々の人間関係や評判の面でプラスになることが多いです。
ただし、これはあくまで「できるなら」の話。できない状況の人に「やるべきだ」と押し付けるつもりは、まったくありません。
「甘え」と言ってくる人へ、どう向き合うか
それでも、退職代行を使うと「甘えだ」「ずるい」と言ってくる人は出てきます。家族かもしれないし、友人かもしれないし、ネット上の知らない誰かかもしれません。
そういう声にどう向き合うか。私の答えは、シンプルです。
反応しなくていい。
どれほど辛いかは、本人にしか分かりません。「自分で言うべきだ」「義理を通すべきだ」というのは、その人自身の価値観であって、あなたの状況には当てはまらない可能性が高い。それは古典的な決めつけで、あなたを縛るためのものではないはずです。
大事なのは、世間の声に応えることではなく、自分の心身の健康を守ることです。
私は7回辞めてきました。そのうち何回かは、自分でやることに意地を張った結果、心も体もボロボロになってから辞めました。今振り返って思うのは、「もっと早く誰かを頼ればよかった」ということです。
「逃げ癖がつく」と言われたら、こう返してください。「逃げ癖よりも、自分を壊す癖の方が、ずっと怖いです」と。
退職代行を使うと決めたら。後悔しない選び方
ここまで読んで「使ってみようかな」と思った方へ、最後に大事なことを。
退職代行は、運営元によって、できることと安全性が大きく変わります。選び方を間違えると、トラブルに巻き込まれることもあります。
安全に使うなら、「弁護士が運営している」か「労働組合が運営している」サービスを選んでください。この2つは、退職条件の交渉などを法的に問題なく行えます。逆に、それ以外の民間業者が「会社と交渉します」とうたっている場合は、法的にグレーな領域に踏み込むリスクがあります。
退職代行の選び方は、サイトの信頼にも関わる大事なテーマなので、業者の比較とあわせて別記事で詳しくまとめます。
関連記事(順次公開予定):「退職代行の評判・口コミ|失敗しない選び方」
心が限界なら、辞める前に、まず休んでください
ここまで「退職代行は甘えではない」という話をしてきましたが、最後に一番大事なことを。
もしあなたが今、心や体が限界に近い状態にあるなら辞める辞めないより先に、まず休むこと、そして専門家を頼ることを考えてください。
辞めるかどうかは、少し回復してからでも、ちゃんと決められます。
ひとりで抱え込まず、相談できる場所があります。
- こころの耳(厚生労働省):働く人のメンタルヘルス情報・相談窓口の総合サイト
- まもろうよ こころ(厚生労働省):電話・SNSなど、いろいろな相談方法から選べます
- 心療内科・精神科の受診:「おかしいな」と感じた時点で、受診していいんです
これは、自分も追い詰められた経験のある私からの、心からのお願いです。
まとめ:「甘え」より「自分を守る」を優先していい
最後に、要点を整理します。
退職代行は、甘えではありません。「自分で言うべき」という古典的な価値観は、「言える側」「払わなくても辞められた側」の論理です。言えない事情を抱えている人の立場には、立っていません。
頭がパンクしている、高圧的な相手と向き合えない、引き止めを断れない、心身が限界。こういう状況なら、退職代行という選択肢があっていい。私は、25歳の頃の自分にこの選択肢を渡してあげたかった、と思っています。
「甘えだ」と言ってくる声には、反応しなくていい。あなたが守るべきは、世間の評価ではなく、自分自身の心と体です。
あなたの最初の一歩を、この研究所はいつでも応援しています。
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