「退職代行 逮捕」「モームリ 判決」。こんな検索をして、この記事にたどり着いた方も多いと思います。
これから退職代行を使おうと思っていたのに、大手業者の運営元が弁護士法違反で有罪判決を受けたと聞いて、「退職代行って結局、危ないものなんじゃないか」「自分が使おうとしているサービスも大丈夫なのか」と不安になったのではないでしょうか。
私は7回、会社を辞めてきました。20代の頃、不動産業界にいたときは、自分では「辞めます」の一言すら言い出せず、本気で「誰かに間に入ってほしい」と思っていました。ただ当時は退職代行という選択肢の存在自体を知らず、使うかどうか検討する余地もありませんでした。結局は自分で伝えるしかなく、「今の案件どうすんねん?」「お前の仕事誰がやんねん?」「無責任すぎるやろ」と詰められて、何も言い返せなかったことを今でも覚えています。
もしあの頃、私が退職代行という選択肢を知っていたら、間違いなく頼っていたと思います。だからこそ、今回のニュースで「頼ろうとしていた場所が実は危なかった」と感じている方の不安は、他人事ではありません。
この記事では、今回の事件で実際に何が「有罪」になったのかを整理したうえで、弁護士・労働組合・民間業者の違いと、これから退職代行を選ぶときに確認しておきたいポイントをまとめます。法律に関わる内容なので、断定は避け、執筆時点で確認できた報道内容をもとに書いています。個別の状況については、最終的に専門家や公的機関にもご確認ください。
今回の事件で、本当は何が「有罪」になったのか
まず整理しておきたいのは、今回の判決は「退職代行サービスそのものが違法だった」という判断ではない、ということです。ここを混同すると、必要以上に怖くなってしまいます。
報道によると、経緯は次のとおりです。
退職代行サービス「モームリ」を運営する会社「アルバトロス」の前社長らが、弁護士資格がないにもかかわらず、退職希望者を弁護士に有償であっせんしたとして、弁護士法違反などの罪に問われました。
2026年8月28日、東京地裁は前社長に懲役2年・執行猶予3年(求刑通り)、妻で元執行役員だった被告に懲役1年6カ月・執行猶予3年、法人としての運営会社に罰金200万円を言い渡しました。
判決によると、あっせんの対象となった退職希望者は約1年8カ月で計174人にのぼり、対象期間は2023年6月から2025年2月とされています。裁判長は「弁護士制度の公正・円滑な維持運営に影響を与えかねない大規模かつ職業的な犯行」と指摘し、「利益を優先するあまり、法令順守を軽視した」と述べたと報じられています。
なお、依頼者を紹介された弁護士2人も弁護士法違反などの罪で起訴されており、1人は一審で有罪判決を受けて控訴中、もう1人は一審公判中とされています。
つまり、有罪とされたのは「本来は弁護士でなければできない法律事務が必要な依頼者を、運営会社が弁護士へ紹介し、その見返りとして報酬を受け取っていたこと」です。
「退職代行というサービスを使ったら即アウト」という話ではありません。 ただ、「退職代行が、依頼者の法律相談を仲介して稼ぐスキームを作っていた」という事実は、これから業者を選ぶ人にとって、他人事ではないと思います。
今後の運営体制の変更や続報については、契約前にご自身でも最新情報を確認することをおすすめします。
弁護士法72条とは?「非弁行為」をやさしく解説
今回の件を理解するうえで欠かせないのが、弁護士法72条です。かみ砕くと、こういう内容です。
弁護士資格を持たない人や会社は、報酬をもらって、法律的なトラブルについて代理交渉したり、そのあっせん(仲介)をしたりする仕事をしてはいけない。
これが「非弁行為」と呼ばれるものです。違反すると2年以下の懲役、または300万円以下の罰金の対象になり得るとされています。
さらに、弁護士側にも「非弁提携」という規制があります。弁護士は、こうした無資格の業者からの周旋(あっせん)を受けてはいけない、というルールです(弁護士法27条)。今回、運営会社と提携弁護士の双方が罪に問われたのは、この双方向の規制に触れたためと考えられます。
弁護士会などの見解として、次のような線引きが示されています。
- 退職の意思を、本人に代わってそのまま会社に伝える「使者」としての役割にとどまる限り、弁護士資格は不要
- 未払い残業代や有給消化の交渉など、法律的な問題について本人に代わって話し合う(交渉する)ことは、非弁行為にあたる可能性がある
- 業者が「交渉が必要になったら提携先の弁護士や労働組合に回す」という形をとっていても、お金を受け取って法律問題の処理を他者へあっせんすること自体が、非弁行為にあたり得る
つまり、「弁護士や労働組合と提携しています」という言葉だけでは、安全性の証明にはならない、ということです。
労働組合が運営する退職代行は、なぜ合法とされているのか
一方で、労働組合が運営する退職代行については、事情が異なります。
適法に設立された労働組合には、憲法28条と労働組合法によって「団体交渉権」が認められています。この権利にもとづいて、退職日・有給消化・未払い賃金といった労働条件について、会社側と交渉すること自体は、法律上想定された行為です。だからこそ、労働組合運営の退職代行は、非弁行為には直ちにあたらないとされています。
ただし、これは「労働組合であれば何をしても安全」という意味ではありません。労働組合にも、できることとできないことがはっきり分かれています。たとえば、損害賠償請求への対応や訴訟代理といった、より踏み込んだ法律行為は、労働組合の範囲を超える可能性があります。「労働組合だから絶対に安心」と判断するのではなく、どこまで対応してくれるサービスなのかを確認する姿勢が必要です。
弁護士・労働組合・民間業者の違い
ここまでの内容を整理すると、退職代行は運営元によって「できること」がはっきり分かれます。
| 弁護士・弁護士法人 | 労働組合 | 民間業者(株式会社など) | |
|---|---|---|---|
| 退職意思を伝える | できる | できる | できる |
| 退職日・有給消化の交渉 | できる | できる(団体交渉権の範囲) | 原則できない(非弁リスク) |
| 未払い残業代・退職金の請求 | できる | 交渉は可能なケースがあるが、内容による | できない |
| 損害賠償請求への対応・訴訟代理 | できる | 原則できない | できない |
| 料金の目安(税込) | 概ね4万〜10万円程度 | 概ね2万〜3万円程度 | 概ね1万〜3万円程度 |
※料金は報道・各種情報を横断した「目安の幅」であり、業者やプランによって前後します。最終的な金額は必ず公式サイトで確認してください。
ここで注意したいのは、株式会社が運営する民間業者であるにもかかわらず、「会社と退職日を交渉します」「有給消化を100%サポートします」といった表現を使っているケースです。運営元の登記形態と、うたっているサービス内容が食い違っている場合、非弁行為のリスクに対する認識が薄い業者である可能性があります。
非弁リスクを避ける、安全な退職代行の選び方
今回のような事件をきっかけに、「じゃあ、どうやって選べばいいのか」がいちばんの疑問だと思います。契約前に、次の点を確認することをおすすめします。
- 運営元が「弁護士法人」か「適法な労働組合」であることを、公式サイトの会社概要・運営者情報で確認する(株式会社が単独で運営している場合、交渉行為をうたっていないかもチェック)
- 「交渉」「有給消化サポート」「未払い賃金請求」といった言葉を使っている場合、それが誰の名前で行われるサービスなのかを確認する(労働組合や弁護士が直接窓口になるのか、民間業者が仲介するだけなのかは別物です)
- 「提携弁護士・提携労働組合にすべて任せられます」という説明だけで安心せず、その提携がどういう形(誰が窓口で、誰が報酬を受け取るのか)なのかを聞いてみる
- 極端に安い料金で「なんでも交渉します」とうたっているサービスは、いったん立ち止まって確認する
弁護士運営・労働組合運営に絞った比較は、こちらの記事でまとめています。
正直なところ、私が最初に辞めた時は、こうした違いを調べる余裕すらありませんでした。怖くて、早く終わらせたい一心だったからです。だからこそ、今これを読んでいるあなたには、契約前のほんの数分だけ、この視点を持ってほしいと思います。
よくある不安・Q&A
Q. 今から退職代行を使っても大丈夫ですか?
今回の判決の対象となったのは「無資格で弁護士に有償あっせんしていたこと」であり、退職の意思を伝えるサービス自体が使えなくなったわけではないと報じられています。ただし、運営体制の変更や続報が出ていないか、契約前にご自身でも最新情報を確認することをおすすめします。判断に迷う場合は、弁護士運営または労働組合運営のサービスを選ぶ方が、リスクを避けやすいといえます。
Q. 非弁行為が疑われる業者を使うと、依頼者も罰せられるのですか?
報道されている事例では、処罰の対象は運営会社側・提携弁護士側です。依頼者が処罰された事例は確認できていません。ただし、交渉してもらえるはずの内容が実は対応されていなかった、といったトラブルにつながる可能性はあるため、事前確認は依頼者自身を守ることにもつながります。
Q. 労働組合運営なら、有給消化も未払い残業代も全部やってもらえますか?
団体交渉権の範囲での対応は可能とされていますが、内容によっては労働組合の対応範囲を超える場合があります。金額の大きい未払い賃金請求や損害賠償対応が絡みそうな場合は、弁護士運営のサービスの方が適しているケースもあります。契約前に「自分のケースは対応範囲内か」を問い合わせておくと安心です。
Q. そもそも、会社に言えば自分で辞められますか?
民法627条により、期間の定めのない雇用契約は、退職の申し出から2週間が経過すれば終了するとされています。就業規則に「1ヶ月前申告」と書かれていても、法律上は2週間で退職が成立するという整理が一般的です。とはいえ、実際に自分の口で言い出せるかどうかは別問題です。私自身、それができずに苦しんだ一人なので、無理に自分だけで抱え込む必要はないと思います。
言い出せないときの具体的な進め方は、こちらの記事でまとめています。
もし今、心身がもう限界だと感じているなら
ここまで、退職代行の選び方について書いてきました。ただ、もしあなたが今、「調べる気力すらない」「もう起き上がるのもつらい」という状態なら、業者選びよりも先にやってほしいことがあります。
それは、まず休むことです。
7回も転職してきた私が言うのもおかしいかもしれませんが、正しい情報を集めることも、良い業者を選ぶことも、心身に最低限のエネルギーが残っていて初めてできることです。限界まで我慢してから動こうとすると、判断そのものが難しくなります。
もし「誰かに話を聞いてほしい」「一人で抱えるのがつらい」と感じたら、次のような公的な相談窓口も選択肢にしてください。無料で、匿名でも相談できるものが多くあります。
- こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556):お住まいの地域の公的な相談機関につながる全国共通の窓口です
- よりそいホットライン(0120-279-338):仕事や生活の悩みなど、幅広い相談に対応しています
- こころの耳(厚生労働省):職場のメンタルヘルスに関する電話・SNS相談窓口です
- 労働基準監督署:残業代の未払いや職場のハラスメントなど、労働問題そのものの相談先です
- 法テラス(日本司法支援センター):法律的なトラブルについて、無料の相談先を案内してもらえます
「退職代行を使うかどうか」より前に、「まず自分を休ませる」「まず誰かに話す」という選択肢があることを、忘れないでほしいと思います。
まとめ:怖くて言えない夜に、思い出してほしいこと
今回の判決は、「退職代行が全部危ない」という話ではなく、「運営元によって、できることも、リスクも違う」ということを改めて浮き彫りにした出来事だったと思います。
私が最初に辞めた時のように、「誰かに間に入ってほしい」と本気で思っている人は、今もたくさんいるはずです。その気持ち自体は、何もおかしくありません。ただ、頼る先を選ぶときだけは、少し立ち止まって、運営元と対応範囲を確認してみてください。
弁護士運営か、適法な労働組合運営か。それだけを最初のフィルターにするだけで、今回のような落とし穴の多くは避けられます。焦って一番安いところに飛びつく前に、まずは自分の状況(トラブルの有無、未払いの心当たりなど)を整理し、それに合った相手を選ぶことから始めてみてください。
そして何より、業者選びより先に、あなた自身の心と体を優先してください。
この記事は、運営者ポン太の実体験をもとに書いています。法律や制度に関する内容は執筆時点の情報であり、個別のケースについては専門家や公的機関にご確認ください。また、当サイトはアフィリエイト広告を利用しています。
