会議で意見を求められても、当たり障りのないことしか言わなくなった。
定時になったら、真っ先にパソコンを閉じるようになった。
「これ、もっとこうしたら良くなるのに」と思っても、もう口に出さなくなった。
そんな自分に、ある日ふと気づいたことはありませんか。
私にも、まったく同じ時期がありました。前職で、頑張った分だけ評価される……はずが、気づけば自分の待遇はほとんど変わらないまま、周囲の状況だけが変わっていくのを感じた時期がありました。それを知ったとき、心のどこかで「スイッチ」がパチンと切れた感覚があったのを、今でも覚えています。
これは、いわゆる「静かな退職(Quiet Quitting)」と呼ばれる状態です。
この記事では、「静かな退職」がなぜ起きるのか、そしてそこから「まだ様子見でいい状態」なのか「もう本当に動くべき状態」なのかを見分ける判断基準について、私自身の経験も交えながらお伝えします。
そもそも「静かな退職」は、サボりとは違う
「静かな退職」という言葉は、2022年にアメリカのSNS(TikTok)発で広まった考え方です。会社を実際に辞めるわけではなく、仕事への熱意や自発的な貢献を控え、契約や職務範囲で決められた「必要最低限」だけをこなす働き方を指します。
大事なのは、これは「サボり」とは少し違うということです。無断欠勤をしたり、仕事を投げ出したりしているわけではない。あくまで「やるべきことはやる。それ以上は、もうしない」という状態です。
4割超が「自分もそうだ」と答えている
日本でもこの数年で急速に認知が広がっています。マイナビの調査(2026年4月発表、2025年11月に20〜59歳の正社員3,000人を対象に実施)では、「静かな退職」をしていると回答した割合は46.7%。前年より2.2ポイント増えました。
年代別では20代が50.5%で最多、30代49.1%、50代46.7%、40代42.3%と続き、全年代で4割を超えています。
さらに注目したいのは、その後の意向です。「静かな退職をしている」と答えた人のうち、73.7%が「今後も続けたい」と回答しています(「ずっと続けたい」は28.8%)。前年より3.3ポイント増えており、一時的な状態ではなく、働き方の選択肢として定着しつつあることがうかがえます。
企業側も、4割以上が「賛成」している
意外かもしれませんが、企業の中途採用担当者に「静かな退職」への賛否を聞いたところ、賛成が42.2%で、反対の30.1%を上回りました。賛成理由としては「人それぞれにあった仕事をしてほしい」「決められたことをきちっとこなせる社員も一定数いないと経営が成り立たない」といった声が挙がっています。
つまり、あなたが後ろめたく思っているその働き方を、企業側の少なくない割合が受け入れているということです。
ただし、数字の読み方には注意が必要
少しややこしいのですが、パーソル総合研究所が「働く10,000人の就業・成長定点調査」で、残業時間や転職意向といった行動面から厳密に定義して調べたところ、「静かな退職者」の割合は2025年で5.8%。2017年から約1.5倍に増加しているものの、マイナビ調査の46.7%とは大きく開きがあります。
同じ「静かな退職」という言葉でも、「自分でそう感じている人」で見るか、「行動として厳密に当てはまる人」で見るかで、数字が4割台と5%台まで変わってしまう。これは覚えておいて損はないと思います。
いずれにしても言えるのは、「自分は静かな退職をしている」と感じている人は、あなたが思っているよりずっと多いということです。あなただけが特別に冷めているわけではありません。
実際、私が前職でやる気を出さず最低限だけをこなすようになった時期、同僚を見渡すと、その人はもともと最初からそういうスタンスで働いていました。つまり、私が「変わった」だけで、そういう働き方をしている人はもとから隣にいたわけです。それに気づいたとき、少し肩の力が抜けたのを覚えています。
なぜ「期待しない」に行き着くのか
「静かな退職」の状態になる背景は人それぞれです。マイナビの調査では、きっかけを4つのタイプに分類しており、「無関心タイプ」20.6%、「損得重視タイプ」18.8%、「評価不満タイプ」17.0%、「不一致タイプ」16.0%と、ほぼ拮抗しています。
私の場合は、完全に「評価不満タイプ」でした。
前職で、自分がどれだけ結果を出しても、それに見合うだけの評価や待遇にはつながらないと感じた時期がありました。「あ、これはもう頑張るだけ損なんだ」と、静かに、でもはっきりと諦めがついた瞬間がありました。
怒りというより、力が抜けるような感覚に近かったです。反抗するでもなく、辞めるでもなく、ただ「期待するのをやめる」。これが、多くの人にとっての「静かな退職」の入り口なのだと思います。
さらに私の場合、話はそこで終わりませんでした。最低限の仕事だけをこなすようになったあと、今度はこなしきれないほどの仕事量を任されたり、現実的に達成が難しいと感じる目標を課され、それが未達だったことを理由に、待遇が下がるという出来事がありました。
ここまでくると、「期待しない」という受け身の姿勢では済まなくなります。私はこのとき、「ああ、もう期待するとかしないとかの話じゃない。ここにいたら、こちらが一方的に損をし続ける構造になっている」と、はっきり踏ん切りがついたのを覚えています。
つまり「静かな退職」には、実は2つの段階があると私は思っています。
- 第一段階:期待するのをやめて、心を守りながら在籍を続ける段階
- 第二段階:それでも一方的に不利益を押しつけられ、在籍そのものが損になっていく段階
多くの記事では「静かな退職はメリットもある、悪いことではない」で終わりがちですが、私の実体験から言えるのは、この2つの段階を混同しないことが何より大事だということです。
「様子見でいい状態」か「もう動くべき状態」かを見分ける
では、自分が今どちらの段階にいるのか、どう見分ければいいのでしょうか。私が実際にくぐり抜けた経験から、次のようなチェックポイントを整理してみました。
まだ「様子見」でいい可能性が高いサイン
- 最低限の業務をこなしていれば、特に不利益な評価や処遇はされていない
- 自分の意思で「これ以上は頑張らない」と決めていて、会社側から一方的に何かを強いられているわけではない
- プライベートの時間や心の余裕が確保できていて、それに満足感がある
「本当に動くべき」サインが出ている可能性が高い状態
- 明らかにこなせない量の仕事や、達成が難しい目標を継続的に課されている
- 「期待しない」でいたはずなのに、給料を下げられる・評価を下げられるなど、一方的な不利益を受けている
- 心身の不調(眠れない、食欲がない、休日も気持ちが休まらない)が出てきている
- 「期待しない」がいつの間にか「何も感じない」に変わってきている
ここで一つ、大事なことをお伝えします。もし今、眠れない・食欲がない・涙が止まらないといった心身の不調が出ているなら、最初にすべきなのは「動くこと」よりも「休むこと」です。まずは心療内科や産業医、かかりつけ医に相談してみてください。心と体が限界のときに、退職や転職の判断を急ぐ必要はありません。動くかどうかは、少し休んで落ち着いてからでも決められます。
前職で私が「辞めるしかない」と踏ん切りがついたのは、まさに2つ目のサインが出そろったタイミングでした。「期待しない」という自衛の姿勢を、相手が逆手にとって不利益を押しつけてくるようになったら、それはもう「静かな退職」で耐える段階を超えています。
なお、法律上の整理として、労働者は契約で定められた職務を適切にこなしている限り、「期待以上に頑張っていない」という理由だけで懲戒処分をするのは難しいと考えられています。また労働者には「働く義務」はあっても「働かせてもらう権利(就労請求権)」はないとも解されています。この2つを合わせて考えると、「静かな退職」自体を理由に一方的に不利な扱いをすることには、本来ハードルがあるはずなのです。
それでも現実に不利益を押しつけられているとしたら、それは職場側の姿勢の問題である可能性が高いと言えます。もちろん、無断欠勤や著しい職務放棄など、就業規則違反にあたる別の問題がある場合は話が別ですし、個別の状況については社労士や労働局など専門機関に確認することをおすすめします。
それでも「言い出せない」ときに
「動くべきサイン」に気づいても、実際に会社に切り出すのはまた別の怖さがあります。私自身、7回転職していますが、何回経験しても、辞めると伝えるときの緊張感は毎回同じくらいありました。
特に、前職のように一方的に不利益を押しつけてくるような職場では、正面から「辞めます」と言い出すこと自体が、精神的にかなりの負荷になることもあります。
ただし繰り返しになりますが、心身の不調が強く出ている場合は、まず休養や医療機関への相談を優先してください。その上で「それでも自分で言い出すのは難しい」と感じるときの選択肢のひとつとして、弁護士や労働組合が運営する退職代行を使うという方法もあります。これは「逃げ」ではなく、自分の心と時間を守るための一つの手段です。
言い出し方そのものに悩んでいる場合は、こちらの記事も参考になるかもしれません。
よくある不安・Q&A
Q. 静かな退職を続けていたら、いつか評価が下がって困りませんか?
契約上の職務を適切にこなしている限り、それだけを理由に一方的に評価を下げることには本来ハードルがあると考えられています。ただし現実には、職場によって対応が異なります。不利益が実際に生じ始めたら、それは「様子見」の段階を超えているサインだと捉えてよいと思います。
Q. 静かな退職と「働かないおじさん」は同じですか?
どちらも最低限の仕事しかしないという点は似ていますが、「静かな退職」は年齢を問わず、多くの場合は自分の意思で選び取っている状態です。実際、マイナビの調査では20代が50.5%と最も高く、若い世代ほど多い傾向があります。一方「働かないおじさん」は、周囲から一方的にそう評価されてしまうニュアンスを含むことが多く、少し性質が異なります。
Q. 上司からわざと居心地を悪くされている気がします。これも静かな退職ですか?
それはむしろ「静かな解雇(Quiet Firing)」と呼ばれる、会社側からの行為に近いかもしれません。重要な仕事から外す、極端に業務量を減らす、正当な理由のない低評価をつけるといったことが該当すると言われています。パワーハラスメントに該当する可能性がある場合は、都道府県労働局への相談も選択肢になります。
私自身、前職では過大な要求を受けた時期の後に、今度は人間関係がこじれて仕事を任されなくなるという逆の経験もしました。どちらも、本人が望んで選んだ状態ではありません。
Q. 心身の不調があるのですが、退職代行や転職活動より先に何をすればいいですか?
まずは心療内科や産業医、かかりつけ医などに相談し、心と体を休めることを優先してください。退職や転職は、心身が落ち着いてからでも十分に間に合う判断です。「動く前に、まず休む」という選択肢を忘れないでください。
まとめ:期待をやめた自分を、責めなくていい
「静かな退職」をしている自分に気づいたとき、多くの人はまず罪悪感を覚えます。「こんなことでいいのか」「サボっているみたいで後ろめたい」と。
でも、私が前職で経験したことから言えるのは、期待するのをやめるという選択は、自分の心を守るための、ごく自然な防衛反応だということです。調査では正社員の46.7%が同じ状態にあり、企業側の4割以上もそれを受け入れています。恥じる必要はありません。
ただし、それが「様子見」でいられる段階なのか、それとも一方的に不利益を押しつけられる「動くべき」段階に変わってしまっているのか。そこだけは、時々立ち止まって確認してあげてください。そして、もし心身の不調がすでに出ているなら、判断を急ぐ前に、まず休むこと・専門家に相談することを選んでいいのだと、覚えておいてほしいです。
私自身、前職で期待するのをやめ、それでも状況が悪化していったとき、最終的に辞めるという決断をしたことで、ようやく息ができるようになりました。今、静かに耐えているあなたにも、いつか同じように「もう十分頑張った」と、自分に言ってあげられる日が来ると思います。
まずは、今の自分の状態がどちらのサインに近いか、この記事のチェックポイントで確かめてみてください。
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