退職が決まって、次の仕事のこと、生活費のこと、いろいろ考えることがある中で、地味に後回しにされがちなのが健康保険の手続きです。
私も何度か退職を経験していますが、そのたびに「あ、保険証どうするんだっけ」と慌てました。特に印象に残っているのは、退職後に国民健康保険(国保)を選んだときのことです。手続き自体は窓口で言われるままに進めれば終わるのですが、後日届いた保険料の通知書を見て、正直「え、こんなにするの」と声が出ました。想像していた金額より高かったんです。
これは私だけの感覚ではないと思います。在職中は給料から天引きされていた保険料が、退職後は「自分で選んで、自分で払う」ものに変わります。しかも選び方次第で、負担額がけっこう変わってくる。だからこそ、この記事では「任意継続と国保、結局どっちが得なのか」という、多くの人が一番知りたい部分に絞って、判断材料と手続きの期限を整理していきます。
先に正直にお伝えすると、「絶対にこっちが得」という一律の答えはありません。所得、家族構成、住んでいる自治体によって結果が変わるからです。ただ、判断するための「軸」は決まっています。それを一緒に見ていきましょう。
任意継続と国保、何を比べればいいのか
まず整理したいのは、「何を基準に比べるか」です。金額だけを見て決めると、あとで「思っていたのと違った」となりがちなので、いくつかの軸で見ていきます。
保険料の決まり方がそもそも違う
任意継続は、退職時の給料(正確には標準報酬月額)をもとに保険料が決まります。ただし在職中は会社と折半していた保険料が、退職後は全額自己負担になります。単純に「今までの倍近くになる」と考えておくと、通知が来たときの衝撃が少し減るかもしれません。
一方で、標準報酬月額には上限が設けられています。執筆時点(協会けんぽ・令和8年度基準)では標準報酬月額の上限は32万円とされており、それ以上の給料をもらっていた人でも、保険料はこの上限をベースに計算されます。つまり、在職中の給料が高かった人ほど、任意継続の方が割安になりやすいという傾向があります。この金額は毎年度改定されるので、必ず加入時点の最新情報を協会けんぽや健保組合の窓口で確認してください。
国保は少し複雑で、前年の所得に応じた「所得割」と、世帯人数に応じた「均等割」、世帯ごとにかかる「平等割」などを組み合わせて計算されます。この計算方法や税率は自治体ごとに違います。同じ所得・同じ家族構成でも、住んでいる市区町村によって保険料が変わる、ということが普通に起こります。ですから「国保はこのくらい」という全国共通の相場を出すことはできません。お住まいの自治体の窓口かウェブサイトで、必ず確認してください。
家族が多いかどうかで有利・不利が変わる
もう一つ大事な違いがあります。任意継続は、扶養家族が何人いても本人の保険料は変わりません。一方、国保は世帯の人数に応じて均等割が加算される仕組みなので、扶養している家族が多いほど保険料が上がりやすい構造になっています。
一般的な傾向として、扶養家族が多い人ほど任意継続が有利になりやすく、単身者は国保の方が安く収まるケースもあると言われます。ただしこれもあくまで傾向であり、自治体の税率や本人の所得によって逆転することもあります。実際に試算してみないと分からない、というのが正直なところです。
試算するなら「一例」であることを忘れずに
インターネットで検索すると、「任意継続と国保の比較シミュレーション」のような記事がたくさん出てきます。参考にするのは良いのですが、そこに書かれている金額は、あくまである条件(世帯構成・所得・自治体)における一例です。ご自身の状況にそのまま当てはまるとは限りません。
面倒に感じるかもしれませんが、一番確実なのは、退職前に両方の見込み金額を窓口で試算してもらうことです。任意継続なら協会けんぽや健保組合、国保なら自治体の窓口で、それぞれ概算を出してもらえます。私は当時これをやらずに国保を選んでしまい、通知が来てから驚いたクチなので、これから退職する方にはぜひ先に確認することをおすすめします。
「途中で切り替えられる」という選択肢も覚えておく
以前は任意継続に一度加入すると、2年間は原則やめられませんでした。しかし2022年1月からルールが変わり、希望すればいつでも任意継続をやめて、国保や家族の扶養に切り替えることができるようになっています(申出が受理された月の翌月からの脱退)。
つまり「とりあえず任意継続で様子を見て、翌年の所得が確定して国保の方が安くなりそうなら乗り換える」といった柔軟な選択も可能になっています。一度決めたら後戻りできない、という思い込みは持たなくて大丈夫です。
会社都合退職の人は、ここを絶対に見落とさないでほしい
もし今回の退職が、倒産・解雇・雇止めなど自分の意思によらないものだった場合、国保には「非自発的失業者の軽減措置」という制度があります。前年の給与所得を実際の30%とみなして所得割を計算してくれるため、国保の保険料が大きく下がる可能性があります。
対象になるのは、雇用保険で「特定受給資格者」または「特定理由離職者」と判定された方です。ハローワークで交付される「雇用保険受給資格者証」に、この判定が記載されています。申請にはこの受給資格者証が必要で、離職票だけでは手続きできない点に注意してください。
一方で、自己都合退職の場合はこの軽減の対象外です。転職や独立のために自分から辞めた場合は使えません。ここは「自分がどちらに当てはまるか」で結論が大きく変わる、この記事で一番押さえてほしいポイントです。判定に迷ったら、必ずハローワークか自治体の窓口で確認してください。
なお、この「特定受給資格者・特定理由離職者」の判定は、失業保険の給付制限の有無にも直結します。仕組みについては、別の記事で詳しくまとめています。
見落としがちな「家族の扶養」という第3の道
任意継続と国保の比較にばかり気を取られがちですが、配偶者や親など家族の健康保険の扶養に入るという選択肢もあります。条件を満たせば、保険料の負担なく家族の保険に加入できるため、当てはまるなら一番負担が軽い選択肢になり得ます。
収入基準
被扶養者になるには、年間収入が130万円未満(60歳以上または一定の障害がある方は180万円未満)であること、かつ扶養する家族の年収の2分の1未満であることが目安とされています。ここでいう「年収」は、今後1年間の見込み収入で判定されるのが一般的で、通勤手当や失業給付、年金なども含めて計算されます。税金の扶養(いわゆる103万円の壁など)とは別の基準なので、混同しないよう注意してください。
失業給付をもらうタイミングに要注意
ここが実務上、一番つまずきやすいポイントです。失業給付(基本手当)の日額が一定額(目安として3,612円、60歳以上は5,000円)を超える場合、その受給期間中は扶養から外れる必要があるケースが多くあります。
実際の流れとしては、退職後すぐから失業給付の受給が始まるまでの期間は扶養に入れても、給付が始まったタイミングで一度扶養を外れ、国保などに切り替える必要が出てくることがあります。そして給付が終わったら、また扶養に戻れる、という少し面倒な流れです。
「扶養に入れば安心」と思っていたら、給付開始と同時に別の手続きが必要だった、ということも起こり得ます。家族の勤務先の担当部署や健保組合に、自分のケースでどうなるか事前に確認しておくと安心です。
期限を逃すと詰む。手続きのタイムリミット
金額の比較も大事ですが、実はもっとシビアなのが期限です。悩んでいるうちに期限を過ぎてしまうと、選びたかった方を選べなくなることがあります。
| 選択肢 | 期限 | 過ぎたらどうなるか |
|---|---|---|
| 任意継続 | 退職日の翌日から20日以内 | 原則として受理されない |
| 国民健康保険 | 退職後14日以内 | 加入自体はできるが、資格取得日に遡って保険料が請求される |
| 家族の扶養 | 退職日から目安5日以内 | 健保組合によって運用に差があるため要確認 |
任意継続の20日という期限は原則として厳格で、天災など「やむを得ない事情」がない限り、過ぎると受理されません。国保は期限を過ぎても加入できますが、届出が遅れても保険料の負担が減るわけではない点に注意してください。
家族の扶養の「5日以内」という日数は、健保組合によって運用に差がある可能性があります。「だいたいこのくらい」と捉えて、実際は家族の勤務先(人事・総務担当)に早めに確認するのが確実です。
正直に言うと、退職直後はバタバタしていて、悠長に比較検討している余裕がない、という方も多いと思います。もし迷ったら、まず期限が一番短い任意継続の申出だけ済ませておき、後から2022年以降のルールを使って国保や扶養に切り替える、という進め方も現実的な選択肢です。
よくある不安・Q&A
Q. 結局、任意継続と国保、どっちが安いか先に知る方法はありますか?
一番確実なのは、退職前に両方の窓口で見込み額を試算してもらうことです。任意継続は協会けんぽ・健保組合、国保は自治体の窓口で概算を出してもらえます。ネット上の一般的な試算例は「一例」であり、そのままご自身に当てはまるとは限りません。
Q. 会社都合か自己都合か、自分でもよく分かりません。
離職票やハローワークでの手続きの中で「特定受給資格者」「特定理由離職者」に該当するかどうかが判定されます。判定によって国保の軽減が使えるかどうかが変わるため、ハローワークの窓口で確認するのが確実です。
Q. 任意継続にしたけど、あとで国保の方が安いと分かったらどうすればいいですか?
2022年1月以降のルールでは、任意継続はいつでも申出により脱退できます。申出が受理された月の翌月から国保や家族の扶養に切り替えることが可能です。ただし手続きの詳細は加入している健保組合によって案内が異なる場合があるため、窓口で確認してください。
Q. 保険料のほかに、退職後にかかるお金はありますか?
住民税や国民年金の保険料も発生します。特に住民税は前年の所得に対してかかるため、退職して収入が減った後でも請求が来ます。退職後のお金の流れ全体については、別の記事で整理しています。
Q. どちらも手続きが面倒で、正直後回しにしたい気持ちがあります。
その気持ち、よく分かります。ただ、無保険の期間があると、その間の医療費は全額自己負担になってしまいます。退職後すぐに次の仕事が決まっていない場合ほど、体調を崩すリスクも上がる時期です。
もし今、保険の比較を考える気力すら出ないほど心身が疲れているなら、無理に一人で判断を急がなくても大丈夫です。まずは休むこと、そして体調がつらいときは心療内科や、こころの耳(厚生労働省)のような相談窓口を頼ってください。手続きの判断は、少し落ち着いてからでも間に合います。任意継続の20日という期限だけ頭の片隅に置いておいて、動けるようになったら窓口に相談する。それで十分です。
まとめ:正解は人によって違う。だから確認するしかない
任意継続と国保、どちらが得かは、所得・家族構成・自治体によって変わります。「一般的にはこっち」という記事の情報だけで決めず、自分のケースで試算してもらうのが確実です。
判断の軸を整理すると、こうなります。
- 在職中の給料が高かった人、扶養家族が多い人は、任意継続が有利になりやすい
- 単身者や、前年の所得が低い人は、国保のほうが安く収まることもある
- 会社都合退職なら、国保の軽減措置が使える可能性がある
- 家族の扶養に入れるなら、それが一番負担が軽い
そして、期限は待ってくれません。任意継続は20日、国保は14日。悩んでいるうちに過ぎてしまわないよう、退職が決まった時点で一度、窓口に足を運んでみてください。
私は当時それをやらずに、届いた通知書を見て驚きました。同じ驚き方をしなくて済むように、この記事が少しでも役に立てばと思います。
この記事は、運営者ポン太の実体験をもとに書いています。法律や制度に関する内容は執筆時点の情報であり、個別のケースについては専門家や公的機関にご確認ください。また、当サイトはアフィリエイト広告を利用しています。
