退職して収入が途絶えると、最初にきついのは家賃や生活費だけではありません。忘れた頃にポストへ入っている、国民年金の納付書。あれを見て「今はちょっと無理だ」と思ったこと、私にもあります。
私は20代後半、退職して次の仕事が決まるまでの間、国民年金の納付書が届いても払えなかった時期がありました。当時「払わなきゃ」と思いながら、財布と相談して後回しにしていた感覚は、今でも覚えています。
結局そのときは、市区町村の窓口で猶予の申請をしました。そして収入が戻ってから、猶予してもらった分を納めました。今振り返ると、あのとき申請しておいてよかったと思っています。
もしあなたが今、同じように納付書を前に固まっているなら、まず伝えたいことがあります。国民年金には「払えないときの制度」がちゃんと用意されています。放置する前に、知っておいてほしいことをまとめました。
なぜ「払えない」を放置してはいけないのか
「今はお金がないから、後で払えばいいや」と考えたくなる気持ちは、とてもよくわかります。私もそうでした。
ただ、国民年金の保険料は、納付期限から2年を過ぎると「未納」として扱われます。未納のままにしておくと、将来の年金額に反映されないだけでなく、老齢年金を受け取るために必要な「受給資格期間(原則10年)」にもカウントされません。つまり、極端なケースでは「将来、年金そのものを受け取れない」という事態にもつながりかねないということです。
一方で、免除や猶予の申請をして承認されれば、この期間は年金額や受給資格期間の扱いが大きく変わります。「払えない」と「未納のまま放置する」は、まったく違う結果を招きます。 同じ「今は払えない」でも、手続きをするかしないかで、将来が変わってくるのです。
国民年金の免除・猶予にはどんな種類があるのか
まず、大きく分けて次のような制度があります。
- 申請免除:本人・世帯主・配偶者の前年所得が一定額以下の場合などに申請し、承認されると保険料が免除される制度。免除額は「全額」「4分の3」「半額」「4分の1」の4種類に分かれます。
- 納付猶予制度:50歳未満の方が対象で、本人と配偶者それぞれの前年所得が一定額以下の場合に、保険料の納付が猶予される制度です。
- 学生納付特例制度:学生本人の前年所得が一定額以下の場合に利用できる、学生向けの猶予制度です。
そしてもう一つ、退職・失業した方にとって特に知っておいてほしいのが「特例免除」です。
失業した人のための「特例免除」がある
厚生年金に加入していた方が退職・失業すると、国民年金への切り替え手続きが必要になり、その保険料を自分で納めることになります。この保険料の納付が経済的に難しいとき、申請によって免除を受けられるのが特例免除です。
通常の免除審査では本人の所得も見られますが、特例免除の場合は本人の所得を除外して審査してもらえます。失業によって収入がなくなった、または大きく減った人のための仕組みだからです。なお、配偶者や世帯主が失業した場合もこの特例免除の対象になりますが、配偶者・世帯主に一定以上の所得があると、免除が認められないこともあります。
申請には、失業した事実を証明する書類が必要です。次のいずれか一つを用意します。
- 雇用保険被保険者離職票
- 雇用保険受給資格者証
- 雇用保険受給資格通知
- 雇用保険被保険者資格喪失確認通知書
- 閉鎖事項全部証明書(会社の解散・閉鎖が記載されているもの)
なお、過去に同じ失業を理由にすでにこれらの書類を提出したことがある場合は、あらためて添付する必要はありません。
審査は日本年金機構で行われ、申請から約2〜3ヵ月後に、年金事務所より「承認(却下)通知書」が送付されます。すぐに結果が出るものではないので、心づもりをしておくとよいと思います。
失業給付の受給手続きがまだの方は、先にそちらも進めておくと、免除申請に必要な書類が揃いやすくなります。
申請できる期間には区切りがある
免除・猶予の申請には、いくつか知っておくべきルールがあります。
- 申請できるのは、納付期限から2年を経過していない期間(申請時点から2年1ヶ月前までの期間)です。
- 免除・猶予の「1年度」は、7月から翌年6月までという区切りになっています。
- 申請は年度ごとに必要で、1枚の申請書で申請できるのは1年度分のみです。複数年度分をまとめて申請したい場合は、その分の申請書を分けて提出することになります。
「もう時効だから申請できない」と思い込んで諦めてしまう前に、まずは窓口やねんきんネットで、自分がどの期間分を申請できるのか確認してみることをおすすめします。
所得の基準はどのくらいか
特例免除以外の通常の申請免除・納付猶予には、配偶者や世帯主の所得基準があります。
- 全額免除:前年所得が(扶養親族等の数+1)×35万円+32万円の範囲内
- 4分の3免除:88万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等の範囲内
- 半額免除:128万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等の範囲内
- 4分の1免除:168万円+扶養親族等控除額+社会保険料控除額等の範囲内
数字だけ見ても、自分がどこに当てはまるのか分かりにくいと思います。私も当時この計算式を見て「結局いくらなら大丈夫なんだ」と混乱した記憶があります。ここは無理に自分で計算しようとせず、年金事務所や市区町村の窓口で直接確認するのが確実です。特例免除の場合は本人の所得が除外されるので、話はもう少しシンプルになります。
免除・猶予を受けると、将来の年金額はどうなるのか
ここが一番気になるところだと思います。免除や猶予を受けると、将来受け取る年金額に影響が出ます。ただし、その影響の大きさは「免除」なのか「猶予」なのか、また未納放置なのかによって、まったく違います。
- 全額免除の期間は、保険料を全額納付した場合の年金額の2分の1(税金分)を受け取れます。手続きをせず未納のままだと、この2分の1すら受け取れません。
- 4分の1免除の期間は、全額納付した場合の8分の7を受け取れます(平成21年3月分までは6分の5)。
- 納付猶予が認められた期間は、年金の受給資格期間としては計算されます。ただし、後から追納しないと、受け取る年金額そのものには反映されません。
- 一部免除(4分の3・半額・4分の1免除)の場合、減額された分の保険料を納付しないと、その月は未納期間として扱われてしまいます。「免除されたから払わなくていい」と思い込むと、思わぬ落とし穴になるので注意が必要です。
一方で、免除や猶予を受けている期間中に、病気やけがで障害を負ったり、万が一のことがあったりした場合、一定の要件を満たせば障害基礎年金や遺族基礎年金を受け取れる可能性があります。これは未納のままでは得られない保障です。「払えないから」と放置するのと、「申請して免除・猶予を受ける」のとでは、いざという時の安心感がまったく違います。
後から納める「追納」という選択肢
免除や猶予を受けた期間は、年金額が全額納付した場合より低くなります。ただし、10年以内であれば追納(後払い)することで、年金額を減らさずに受け取れるようになります。
私も、猶予を受けた分は収入が戻ってから納めました。猶予の申請をした時点では「この先どうなるんだろう」という不安がありましたが、結果的には、あのとき窓口に行っておいてよかったと思っています。未納のまま放置していたら、後から納めるという選択肢すらなかったはずです。
注意点として、免除が承認された期間の保険料を3年目以降に追納する場合は、当時の保険料に加算金がつきます。早く納めるほど、負担は軽くて済むということです。
追納の順序にも一定のルールがあるとされていますが、このあたりは制度の細かい取り扱いになるため、具体的な順序や金額のシミュレーションは、年金事務所やねんきんネットで個別に確認するのが確実です。「収入が落ち着いたら、追納できる範囲で少しずつ納めていく」というくらいの心づもりで十分だと思います。
保険料と年金額の目安(執筆時点)
参考までに、執筆時点(令和8年度)の金額を載せておきます。ただし、これらは毎年度改定されるので、実際に手続きする際は最新の金額を確認してください。
- 国民年金保険料:月額17,920円(令和8年度)
- 満額の老齢基礎年金:月額70,608円(令和8年度、昭和31年4月1日以前生まれの方は70,408円)
まとめて前払い(前納)すると割引が適用される制度もあるので、余裕があるときはそちらも検討材料になります。
どこで、どうやって申請すればいいのか
申請先は、住所地の市区役所・町村役場にある国民年金の担当窓口です。窓口に行くのが難しい場合は、郵送での提出も可能です。
私が申請したときも、市区町村の窓口でした。行く前は気が重かったのですが、実際は淡々と、事務的に手続きが進みました。「失業して払うのが難しい」と伝えたら、必要な書類と手順を案内してもらえた、という感じです。
また、マイナンバーカードがあれば、マイナポータルから電子申請することもできます。国民年金保険料の免除・納付猶予申請や学生納付特例申請は、マイナポータル経由でオンライン完結できるようになっています。申請後の審査状況も、マイナポータルの申請状況照会ページで確認できます。
一方、「ねんきんネット」は年金記録の照会や将来の年金額の試算、追納申込書の作成に使うサービスです。追納申込書はねんきんネット上で作成できますが、これは電子申請ではなく、印刷した届書を年金事務所へ提出する必要があります。「免除申請はマイナポータル」「追納の書類づくりはねんきんネット」と、役割が少し違うことを覚えておくと迷いません。
よくある不安・Q&A
Q. 申請すれば必ず免除・猶予が認められますか?
所得状況などによって審査されるため、必ず認められるとは限りません。特例免除の場合は本人の所得が除外されるなど、通常の審査より通りやすい設計にはなっていますが、最終的な判断は審査結果によります。
Q. すでに未納のまま2年以上経ってしまった分はどうなりますか?
納付期限から2年を過ぎた期間は、原則として免除・猶予の申請自体ができなくなります。まずは、まだ申請可能な期間が残っていないか、年金事務所や窓口で確認することをおすすめします。
Q. 免除と猶予、どちらが自分に合っているか分かりません。
これは所得状況や年齢(50歳未満かどうか)、将来どれくらい追納する余力がありそうかによって変わってきます。制度の名前だけで判断せず、窓口で「今の状況ならどれに当てはまりそうか」を相談してみるのが確実です。
Q. 窓口に行くのが気が重いです。
その気持ちはよくわかります。私も行く前は憂鬱でした。でも実際は、責められることも詮索されることもなく、事務的に手続きが進みました。「失業して払うのが難しい」と伝えるだけで大丈夫です。どうしても足が向かないなら、郵送やマイナポータルからの申請という方法もあります。
Q. 国民年金のほかに、退職後にかかるお金はありますか?
健康保険料と住民税があります。特に住民税は前年の所得に対してかかるため、収入が減った後でも請求が来ます。
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まとめ:払えないと思ったら、まず「相談する」を選択肢に入れてほしい
退職した直後は、お金のことだけでなく、次の仕事のこと、これからの生活のこと、いろいろなことが一気にのしかかってきます。国民年金の納付書は、その中でも後回しにしやすいものの一つだと思います。私自身、当時は目の前のことで精一杯でした。
でも、「払えない」と感じた時点で、実はもう動くタイミングです。未納のまま放置するのと、免除・猶予を申請するのとでは、将来受け取れる年金にも、万が一の時の保障にも差が出ます。
まずは、お住まいの市区町村の年金担当窓口に相談してみてください。難しい書類をすべて自分で完璧に理解する必要はありません。「失業して払うのが難しい」と伝えるだけで、窓口の人が必要な手続きを案内してくれます。
私は20代後半でその手続きをして、後から追納しました。あのとき窓口に行かず放置していたら、今の年金記録は違っていたはずです。一人で抱え込まず、まずは相談する。それが、今のあなたにできる一番現実的な一歩だと思います。
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