「最終面接の前に、リファレンスチェックをお願いする場合があります」
転職活動中に採用担当者からそう言われたとき、私はひやっとしました。結局、その選考は最終面接まで進まなかったので、実際にリファレンスチェックが行われることはありませんでした。それでも、あのとき感じた落ち着かなさは今も覚えています。
同じように、「今の上司に連絡が行ったらどうしよう」「在職中だとバレたらまずいんじゃないか」と不安になっている方もいると思います。何をどこまで調べられるのか分からないと、必要以上に怖く感じてしまうものです。
この記事では、
- リファレンスチェックとはそもそも何で、どれくらいの企業が行っているのか
- 在職中の転職活動が今の会社に伝わる可能性はあるのか
- 退職代行を使ったことが転職に不利になるのか
- 自分でできる、現実的な対策
を、公表されている調査データと法律の根拠をもとに整理します。仕組みが分かれば、漠然とした不安は「正体のわかる不安」に変わります。
リファレンスチェックとは何か、どれくらい行われているのか
リファレンスチェックとは、採用候補者の同意を得たうえで、前職や現職の上司・同僚などの第三者(推薦者)に、勤務状況や実績、人柄、仕事ぶりなどを聞く調査のことです。学歴や職歴、犯罪歴などの事実確認を指す「バックグラウンドチェック」とは少し目的が違い、こちらは「書類と面接だけでは見えない、実際の働きぶり」を確認するためのものです。
実施率については、調査によってかなり幅があります。
- エンワールド・ジャパンが2021年1月に行った調査(外資系企業と、グローバルに事業を展開する日系企業の303社が対象)では、実施していると答えたのは外資系企業で58%、日系企業で23%でした。実施している企業の68%が「採用の判断に影響している」と答えています。
- マイナビキャリアリサーチLabが2024年に公表した調査では、リファレンスチェックを実施している企業は36.6%で、「今後検討したい」を合わせると73.2%にのぼりました。従業員301名以上の企業に限ると、実施率は56.5%です。中途採用の選考を受けたことがある人のうち、リファレンスチェックを受けた経験がある人は31.5%でした。
- 一方で、『日本の人事部』の「人事白書2025」(2025年3月調査)では、リファレンスチェックやバックグラウンドチェックを実施している企業は1割超にとどまっています。
数字の差が大きいのは、調査対象の企業規模や業種、聞き方の違いによるものです。「もう当たり前の時代」と言い切るのも、「まだ一部の話」と軽く見るのも、どちらも正確ではありません。どの調査からも読み取れるのは、外資系や規模の大きい企業ほど実施率が高く、これから検討したいという企業も少なくない、ということです。
いつ、誰に、何を聞かれるのか
リファレンスチェックは、候補者自身が推薦者を選んで企業に伝える方式が一般的です。先ほどのエンワールド・ジャパンの調査でも、推薦者を「転職希望者からの推薦」で選ぶ企業が63%でした。
- タイミング:最終面接の前後から内定前後が多い(同じ調査では、最終面接の後に行う企業が62%)
- 推薦者:2人程度が多い。前職の上司や同僚が中心
- 内容:在籍期間・役職・業務内容・実績に加えて、強みや弱み、協調性、「また一緒に働きたいか」といった人物評価
- 方法:電話や面談のほか、推薦者がオンラインのフォームに回答する専門サービスを使う企業もあります
企業が候補者に黙って前の職場に問い合わせることも、まったくないとは言い切れません。ただ、前の職場があなたの個人データを本人の同意なく外部に渡すことは、個人情報保護法で原則として禁じられています。リファレンスチェックは、あなたの同意と、あなたが伝えた推薦者を前提に進むもの、と理解しておくと安心です。
在職中の転職活動は、今の会社に伝わるのか
ここが一番気になるところだと思います。
リファレンスチェックをきっかけに今の会社へ伝わるかどうかは、推薦者に誰を選ぶかでほぼ決まります。今の職場の上司や同僚を推薦者に入れなければ、リファレンスチェックから転職活動が伝わる可能性は低いと言えます。企業から「現職の上司にお願いしたい」と言われた場合は、在職中で今の職場には知られたくない事情を伝え、前職の人に変えてもらえないか相談してみてください。
ただし、別の悩みが出てくることもあります。推薦者として前職の上司が求められやすいため、前職を円満に辞めていなかったり、前職の人と疎遠になっていたりすると、頼める人が見つからないという問題にぶつかりやすいのです。
私自身、在職中に転職活動をしたときは毎回、有給を申請するたびに理由を聞かれないか身構え、面接の行き帰りに会社の人に会わないか周りを気にしていました。リファレンスチェックそのものより、こうした日々の小さなことのほうが、実際には神経を使うものだと感じています。
対策としてできることは、
- 推薦者には今の職場の人ではなく、前職や前々職の信頼できる人を選ぶ
- 推薦者をお願いするときは、転職活動中であることと、連絡が来る可能性があることを伝えて、了承をもらっておく
- 推薦者がどうしても見つからない場合は、採用担当者に率直に事情を相談してみる(無理に取り繕うより、誠実に伝えたほうが話が進みやすいこともあります)
退職代行を使ったことは、転職で不利になるのか
これも気になる方が多いポイントだと思います。「退職代行を使った事実そのもの」が選考で直接マイナスになるという明確なデータは、今のところ見当たりません。ただし、間接的に影響しうる場面はあります。
一つは、先ほど触れた推薦者選びの難しさです。退職代行を使って辞めた場合、前職の上司とは話をしないまま関係が切れていることが多く、推薦者として頼みにくくなります。リファレンスチェックを求められたときに、「誰に頼めばいいか」という実務的な困りごとになりやすいのです。その場合も、前職の同僚や、別の部署でお世話になった人など、上司以外に頼める人がいないか考えてみてください。
もう一つは、面接でのやりとりです。退職理由や前職との関係を聞かれたときに、事実を隠そうとして話が不自然になると、かえって印象を悪くしてしまうことがあります。退職代行を使ったこと自体を恥じる必要はありませんが、「なぜ辞めたか」「今どう考えているか」を自分の言葉で説明できるようにしておくことは、リファレンスチェックの有無に関係なく大切です。
これから退職代行を使うことを考えている場合は、弁護士が運営しているか、労働組合が運営しているかといった違いも含めて、業者の選び方を整理した記事があるので参考にしてみてください。
進め方に不安がある場合は、一人で抱え込まず、転職エージェントに相談しながら進めるという選択肢もあります。リファレンスチェックがある企業かどうかや、推薦者をどう選ぶかを、事前に相談できることもあります。
聞かれて困る内容はあるのか、法律上の制限
リファレンスチェックには、守られるべきルールがあります。
まず、個人情報保護法第27条(第三者提供の制限)により、前の職場があなたの個人データを採用先の企業に提供するには、原則として本人の同意が必要です。
また、職業安定法第5条の5と、それに基づく指針(平成11年労働省告示第141号)では、業務の目的に必要な範囲を超えた個人情報の収集を制限しています。具体的には、人種・民族・社会的身分・門地・本籍・出生地などの社会的差別の原因となるおそれのある事項、思想・信条、労働組合への加入状況は、特別な職業上の必要性がある場合などを除き、収集してはならないとされています。こうした内容を聞かれた場合は、適切な運用とは言えない可能性があります。
リファレンスチェックの結果で内定が取り消されるのではないか、と心配する方もいます。採用内定の取消しについては、大日本印刷事件の最高裁判決(最高裁第二小法廷 昭和54年7月20日)が基準を示しています。取消しが認められるのは、内定当時に知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、それを理由に取り消すことが客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認できる場合に限られる、というものです。
つまり、経歴詐称のように内定の前提を大きく崩す事実が分かった場合とは違い、「推薦者の評価に少しばらつきがあった」程度のことで内定を取り消すのは、法的なハードルが高いと考えられます。ただし、最終的な判断は個別の事情によって変わります。内定を取り消されて納得できない場合は、総合労働相談コーナー(各都道府県の労働局)や弁護士に相談してください。
リファレンスチェックは断れるのか
リファレンスチェックは本人の同意が前提なので、協力するかどうかは自分で決められます。ただし、断ると「何か隠しているのでは」と受け取られ、選考に影響する可能性はあります。断る場合も、理由を添えて、前職の実績が分かる資料を出すなど別の形を提案するほうが、角が立ちにくいでしょう。
連絡が来たときに慌てないように、流れだけ頭に入れておくと安心です。多くの場合、企業から推薦者の人数や連絡先の提出を求められ、推薦者が電話やオンラインのフォームで回答し、その結果が企業に伝わります。推薦者には、いつ頃連絡が行きそうかを伝えておくと親切です。
よくある不安・Q&A
Q. 推薦者に誰を選べばいいか分かりません。
前職の上司が求められることが多いですが、関係が良くない場合は無理に選ぶ必要はありません。前職の同僚や、信頼関係のある別の上司でも構わないか、採用担当者に確認してみてください。大切なのは、事前にお願いして了承をもらっておくことです。
Q. 退職代行を使ったことを面接で聞かれたらどう答えればいいですか。
隠そうとするより、簡潔に事実を伝え、今はどう考えているかを自分の言葉で話すほうが、印象は悪くなりにくいです。退職代行を使ったこと自体を強く責めるような企業なら、入社後の働きやすさを見極める材料にもなります。
Q. リファレンスチェックで良い結果を出す自信がありません。
等身大で臨むことが一番の対策です。面接で話した内容と推薦者の話に大きな食い違いがなければ、過度に心配する必要はありません。むしろ「話が一致していること」自体が信頼につながります。
まとめ
リファレンスチェックは、仕組みを知っていれば、必要以上に怖がるものではありません。多くの場合、企業が連絡を取るのはあなたが同意して伝えた推薦者で、今の職場の人を選ばなければ、在職中の転職活動が伝わる可能性は低いと言えます。
退職代行を使ったことそのものが選考で不利になるというデータはありませんが、推薦者選びや面接での説明に、間接的な影響が出ることはあります。前職で頼める人がいるか、退職理由をどう話すかを、早めに整理しておくと安心です。
私自身、最終面接の前にリファレンスチェックの話をされて、ひやっとしたことがあります。そうした不安の多くは、仕組みを知らないところから来ます。一人で抱え込まず、迷ったときは転職エージェントにも相談しながら、自分のペースで次の一歩を進めてください。
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