親の様子がおかしい。病院からの呼び出しが増えた。仕事中も気が気じゃない。そんな日々が続くと、「もう辞めるしかない」という考えが頭から離れなくなりますよね。
先にお伝えしておきます。私は7回の転職を経験してきましたが、そのすべては人間関係や働き方が理由で、親の介護を理由に会社を辞めた経験はありません。ですから、この記事では「介護のリアルな体験談」としてではなく、公的なデータや制度を中心に、辞める前に知っておいてほしいことをまとめています。
ただ、「辞めます」と会社に伝えるときの怖さ、申し訳なさ、誰にも相談できずに一人で抱え込んでしまう感覚は、痛いほどわかります。7回とも、辞めると決めてから伝えるまでが一番つらかったからです。介護というテーマは私自身の経験の外にありますが、「言い出せない苦しさ」の部分は、少しでも力になれるかもしれません。
まずは、あなたが今感じている焦りや罪悪感は、決してあなただけのものではない、というところから見ていきましょう。
介護離職は、あなただけの問題ではない
厚生労働省の「雇用動向調査」によると、2024年に「介護・看護」を理由に離職した人は約9.3万人(男性約3.4万人、女性約5.9万人)。女性が約63%を占めています。
年代別に見ると、男性は45〜49歳、女性は55〜59歳が最も多くなっています。ちょうど仕事でも責任のある立場を任されはじめる時期と、親の介護が重なりやすい年代です。
この数字は、2000年には3.8万人でした。増減を繰り返しながら、24年で2.4倍以上に膨らんでいます。個人的理由で離職した人のうち「介護・看護」が占める割合も、2000年の0.86%から2024年には1.70%へと上がっています。
さらに、経済産業省の推計では、働きながら家族の介護を担う人(ビジネスケアラー)は、すでに約365万人。2030年には家族介護者が833万人に達し、そのうち約4割にあたる約318万人がビジネスケアラーになると見込まれています。仕事と介護の両立困難による経済損失は、2030年時点で約9.1兆円と試算されています。
数字だけ見ると重い話ですが、伝えたいのはひとつです。「辞めるかどうか」で悩んでいるのは、あなた一人ではありません。制度も社会も、この問題に少しずつ追いついてきている最中です。
なぜ「辞める」しか見えなくなるのか
不思議なことに、介護休業や介護休暇という制度は法律で決まっているのに、実際に使っている人はごくわずかです。厚生労働省の調査では、介護休業を取得した人がいた事業所はごく限られており、労働者側の調査でも、実際に介護休業を利用した人は数パーセントにとどまるという結果が出ています。
制度はある。でも、使われていない。
理由はいくつか考えられます。「まだ大丈夫」と思っているうちに状況が急変すること。職場に前例がなく、言い出しにくい空気があること。そして何より、「家族の介護は家族がするもの」という意識が、知らず知らずのうちに自分を追い詰めていることです。
この「家族なんだから自分がやらなきゃ」という気持ちは、決して間違ってはいません。ただ、その気持ちだけで突っ走ると、制度を使う選択肢を見る前に「辞める」という結論に飛びついてしまいがちです。辞めることが悪いわけではありません。でも、辞める前に「知らなかっただけ」で選択肢を狭めてしまうのは、もったいないと思うのです。
辞める前に、確認しておきたいこと
もし今、「辞めるしかない」と思い詰めているなら、次のことだけでも確認してから決断してほしいと思います。
介護休業・介護休暇という制度があります
介護休業は、対象となる家族1人につき通算93日まで、3回に分けて取得できます。休業中は雇用保険から給付金が出て、支給額は休業前賃金の67%です(上限額は毎年8月に見直されるため、申請時点の金額を必ずハローワークで確認してください)。
ただし、雇用保険の被保険者で、休業前の2年間に被保険者期間が12か月以上あることが条件になります。この給付金は非課税で、社会保険料なども控除されないため、額面がほぼそのまま手元に残るのも特徴です。
介護休暇は、対象家族が1人なら年5日、2人以上なら年10日まで、1日単位だけでなく時間単位でも取得できます(2021年の法改正で時間単位取得が可能になりました)。ただし、休暇中の給与を払うかどうかは会社によって異なり、法律で有給が義務付けられているわけではありません。
93日は「介護をする期間」ではなく「体制を整える期間」
介護休業の93日間だけで介護のすべてを終わらせるのは、現実的には難しいことがほとんどです。厚生労働省や関係機関も、この期間は自分が介護を行う期間というより、今後仕事と介護を両立するために体制を整えるための期間だと位置づけています。
ケアマネジャーとの相談、介護保険サービスの手配、家族間の役割分担。この93日は、そうした土台づくりに使うものだと考えてください。
2025年4月から、会社側の義務が強化されています
2024年に成立した改正育児・介護休業法により、2025年4月からは、介護休暇を取れる条件が緩和され、勤続6か月未満でも取得できるようになりました。
また、会社側には次のことが義務付けられています。
- 介護に関する相談窓口の設置や研修の実施など、一定の雇用環境の整備
- 社員から介護に直面したと申し出があった場合の、個別の周知・意向確認
- 40歳前後の社員への、介護に直面する前の早期の情報提供
テレワークについても、選べるようにする努力義務が加わりました。
これらはあくまで会社側の義務であり、希望がすべて通ることを保証するものではありません。ですが、「言えば何かしらの対応をしてもらえる可能性がある」というのは、以前より確実に広がっています。
一人で抱え込まず、外の窓口にもつないでみてください
地域包括支援センターは、介護保険サービスの利用相談を無料で受けられる公的な窓口です。各市町村が設置している、高齢者の生活を支えるための総合機関です。
会社の中だけで解決しようとせず、外部の専門家に一度状況を話してみるだけでも、見えていなかった選択肢が出てくることがあります。
会社に「辞める」と言えないほど追い詰められているなら
制度を調べ、相談窓口にもつないでみた。それでも、状況的にどうしても今の仕事を続けられない。そう判断すること自体は、決して間違いではありません。
ただ、もし「辞めたい気持ちはあるのに、上司にどうしても言い出せない」「体力的・精神的にもう会社に顔を出すことすら限界」というところまで来ているなら、退職代行という選択肢もあります。
ここで一つだけ、強くお伝えしたいことがあります。退職代行を使うなら、弁護士が運営しているサービスか、労働組合が運営しているサービスに限定してください。純粋な民間企業が運営する退職代行は、料金が安く見えても、会社との交渉ができないなど、法律上のグレーゾーンを抱えているケースがあります。
特に介護離職では、有給消化の調整や退職日の交渉が絡むことも多いため、交渉権のあるサービスを選ぶことが安心につながります。
言い出し方そのものに悩んでいる場合は、こちらの記事も参考になるかもしれません。
よくある不安・Q&A
Q. 介護休業や介護休暇を取ったら、評価が下がったり、居づらくなったりしませんか?
そう感じて言い出せない方は少なくないと思います。ただ、2025年4月の法改正で、会社は介護に直面した社員に対して個別に周知・意向確認を行うことが義務になりました。制度を使うこと自体は労働者の権利であり、それを理由に不利益な扱いをすることは法律上問題になり得ます。とはいえ、実際の職場の空気は会社によって差があるのも事実です。不安が大きい場合は、労働局や労働組合など、社外の相談窓口に先に話してみるのも一つの方法です。
Q. 介護を理由に辞めた場合、失業保険はどうなりますか?
介護など「正当な理由」による自己都合退職は、「特定理由離職者」として扱われる場合があります。この区分の大きな利点は、通常の自己都合退職にある給付制限(一定期間、失業保険が支給されない期間)が原則なくなる点です。ただし、給付される日数の詳細は個々の状況によって異なるため、断定はできません。実際の手続きの際は、必ずハローワークで最新の条件を確認してください。
Q. 会社にはいつ、どのタイミングで伝えるべきですか?
これも「絶対にこのタイミング」という正解はありません。ただ、介護は始まったばかりの時期ほど、先が見えず不安が大きくなりがちです。状況がある程度落ち着いてから伝えるより、早めに「介護が始まりそうだ」と会社に共有しておいたほうが、制度の説明を受けられたり、業務調整の相談ができたりする可能性が高まります。抱え込む期間を短くすることが、結果的に自分を守ることにつながります。
Q. 辞めた後の生活費が不安です。
介護と並行して収入が途絶えることへの不安は、当然のものです。失業保険のほか、健康保険や国民年金には、状況によって軽減や免除・猶予の制度があります。辞めた後のお金の流れ全体については、別の記事で整理しています。
まとめ:今日、辞める前にできる小さな一歩
親の介護と仕事、どちらも大切で、どちらも譲れない。そんな板挟みの中で「辞める」という結論に至るのは、決して弱さでも甘えでもありません。
ただ、もし今、あなたが誰にも相談せず一人で結論を出そうとしているなら、辞める前にできることがまだ残っているかもしれません。
- 会社の制度を確認する
- 地域包括支援センターに一本電話をかけてみる
- 信頼できる人に今の状況を話してみる
そのどれか一つだけでも、今日試してみてください。
それでも「もう無理だ」という結論に変わらないなら、それはそれで一つの答えです。そのときは、弁護士や労働組合が運営する退職代行という手段も含めて、あなたを追い詰めない辞め方を選んでほしいと思います。
この記事は、運営者ポン太の実体験をもとに書いています。法律や制度に関する内容は執筆時点の情報であり、個別のケースについては専門家や公的機関にご確認ください。また、当サイトはアフィリエイト広告を利用しています。
