「うちの会社、また退職代行で誰か辞めたらしい」。そんな噂を聞いたことはありませんか。
今、退職代行サービスの運営会社が「同じ会社から何度も依頼が来ている」というデータを公表しています。退職代行モームリの公式X(旧Twitter)が2026年10月23日に投稿した内容によると、100回以上利用された企業は4社あり、最も多い企業では188回にのぼるとされています。業種別のランキングは、プレスリリースで近日公開予定とされていて、執筆時点ではまだ公開されていません。
私自身、20代後半に運送会社でトラックの運転手をしていたとき、1か月も続かずに辞めていく人を何人も見てきました。早い人は1週間、2日目に来なくなる人もいて、当日の午前中に連絡なく来なくなる人も、めずらしくありませんでした。
この記事では、「同じ会社から何度も退職代行が使われる」というデータの中身と、そこから見えてくる「辞めどきのサイン」、そしてどうしても自分の口で言い出せないときの選択肢を、できるだけ事実に基づいてお伝えします。
なぜ同じ会社から退職代行が繰り返し使われるのか
退職代行モームリを運営する株式会社アルバトロスは、これまでに何度か「同じ会社から複数回利用されている」データを公表しています。時系列で並べると、次のようになります。
- 2025年2月の公表:2025年1月末までの利用者26,952人分のデータで、複数回利用された企業は2,667社(利用された企業全体の9.8%)。最多は人材派遣会社の104回で、上位10社はいずれも従業員1,500人を超える企業だった
- 2025年10月6日時点:1位は人材派遣会社(160回)、2位は自動車販売会社(97回)、3位はコンビニチェーン(93回)
- 2025年10月15日時点:100回以上利用された企業が2社に増え、最多は165回。複数回利用された企業は4,765社で、うち10回以上が217社、20回以上が77社、50回以上が23社
- 2026年10月23日の公式Xの投稿:100回以上利用された企業が4社に増え、最多は188回
2025年2月の公表では、24回以上利用された上位40社のうち16社が人材派遣会社で、人材派遣会社の利用者の約9割は派遣先で働いていた人だったとされています。同社は、雇用元と就業先が違うために労働環境の実態をつかみにくいこと、企業同士の派遣契約があるために強引な引き止めが起きやすいことを、理由として挙げています。上位にはほかにも、コンビニチェーン、運送会社、自動車販売会社が入っていました。
企業側の調査でも、業種による差が出ています。東京商工リサーチが2026年3〜4月に行った調査(6,425社が回答)では、2024年1月以降に退職代行を使った退職者がいた企業の割合は、宿泊業で24.1%(回答29社のうち7社)、警備会社などを含む「その他の事業サービス業」で19.4%(154社のうち30社)と高くなっていました。
ここで一つ、はっきりさせておきたいことがあります。「同じ会社から何度も使われている」という事実だけで、その会社が一方的に悪いと決めつけることはできません。従業員が多い会社ほど、利用される回数も増えやすいからです。それでも、同じ会社から何十回、何百回と依頼が続いているなら、個人の問題というより、職場の側に原因がある可能性は十分に考えられます。
私がいた運送会社でも、人が次々に辞めていった
私が20代後半に働いていた運送会社は、入社して1か月続く人のほうが珍しい職場でした。早い人は1週間、中には2日目に来なくなる人もいて、当日の午前中にバックレる人も、めずらしくありませんでした。
繁忙期には50連勤ほど続き、家に帰れず、会社やトラックの中で寝た夜もありました。仕事そのもののきつさに加えて、暴言が当たり前で、威圧的な役員もいる職場でした。
辞めていった人たちの理由を一人ひとり聞いたわけではありません。私自身は、居眠りで事故を起こしかけた同僚を見て、事故が怖くなって辞めました。当時は、退職代行というサービスもまだ広まっていませんでした。
連絡もなく来なくなるのは、本人にとってもリスクのある辞め方です。それでも、そういう辞め方をする人が、同じ職場から次々に出ていました。
辞めどきを見極めるためのサイン
退職代行のデータや私が見てきた職場から考えられる、「辞めどきかもしれない」というサインをいくつか挙げてみます。一つ当てはまるからといって今すぐ辞めるべきということではありませんが、自分の状況を客観的に見るための材料にしてください。
- 入社から短期間で辞める人が、自分の周りに何人もいる
- 連絡なく来なくなる人が、めずらしくない
- 上司や経営層からの暴言、威圧的な態度が「普通」として扱われている
- 「辞めたい」と言い出しても、まともに取り合ってもらえない雰囲気がある
- 有給消化や退職日の相談すら、まともにできる空気がない
こうしたサインが重なっているほど、「自分が我慢すれば済む話」ではなく、「職場の仕組みそのものに問題がある」可能性が高くなります。自分を責める前に、一度立ち止まって、周りの状況も含めて見てみてください。
それでも自分の口で言い出せないときは
ここまで読んで、「辞めどきだとは思うけれど、自分の口ではどうしても言い出せない」という方もいると思います。暴言が日常にあるような職場であればなおさら、直接伝えることが怖いのは当然です。
そうした場合の選択肢として、退職代行サービスがあります。ただし、利用する際には運営元の違いを理解しておく必要があります。
民法627条1項では、期間の定めのない雇用契約であれば、退職を申し入れてから2週間が経てば雇用契約は終了するとされています。この「退職の意思を会社に伝える」こと自体は、民間の業者が行っても違法ではないと一般的には整理されています。
一方で、有給消化の希望や退職日の調整といった「交渉」になると話は別です。弁護士法72条は、弁護士ではない人が報酬を得る目的で、法律事務の代理や交渉を仕事として行うことを禁じています。これは「非弁行為」と呼ばれ、民間の退職代行業者が交渉まで踏み込むと、この条文に触れるおそれがあると指摘されています。
退職代行業界では、大きな事件も起きました。モームリの運営会社の前社長らが、利用者を報酬目的で弁護士にあっせんしたとして2026年2月に逮捕され、2026年8月28日に東京地裁で有罪判決を受けました。前社長は懲役2年・執行猶予3年、妻は懲役1年6月・執行猶予3年、法人には罰金200万円が言い渡されています。あっせんした依頼者は174人とされています。退職代行というサービスそのものが違法と判断されたわけではありません。同社は2026年4月から、新しい代表のもとで受付を再開しています。
また、帝国データバンクの調査では、2025年10月時点でサービスを提供していた主要な52事業者のうち、14事業者が2026年9月までの約1年でサービスを停止した可能性があるとされています。
こうした経緯を踏まえると、退職代行を選ぶ際は「どこが運営しているか」を確認することが欠かせません。退職の意思を伝えるだけでなく、有給消化や退職日の調整まで任せたい場合は、団体交渉権を持つ労働組合が運営するサービスか、弁護士が運営するサービスを選んでください。
よくある不安・Q&A
Q. 同じ会社で退職代行が何度も使われていたら、自分が使ってもおかしく思われませんか?
おかしなことではありません。同じ会社から何度も利用されているということは、それだけ「辞めたくても言い出せない」と感じた人が多い職場である可能性があります。周りの目より、自分の心と体を優先して大丈夫です。
Q. 退職代行を使ったことは、転職先に知られますか?
退職代行を使ったことは、今の会社には当然伝わります。一方で、転職先に利用歴が自動的に伝わる仕組みは、基本的にはありません。ただし、東京商工リサーチの2026年の調査では、選考中に退職代行の利用歴が分かった場合、「採用に慎重になる」が49.3%、「採用しない」が26.0%で、合わせて7割を超えました。自分から話さなければいけない場面は多くありませんが、こうした見方をする企業があることは知っておいてください。
Q. 退職代行を使うこと自体は違法じゃないんですか?
退職の意思を会社に伝えるという行為自体は、業者を介しても違法ではないと一般的には整理されています。ただし、有給消化や退職日などの「交渉」を民間業者が行う場合は、弁護士法に触れるおそれがあると指摘されています。利用する際は、運営元が労働組合か弁護士かを確認してください。
Q. 事件や撤退のニュースを見ると、どの業者を選べばいいか不安です。
まず、運営元が弁護士か労働組合かを公式サイトで確認してください。そのうえで、料金の総額と追加料金の有無、対応できる範囲(有給消化や退職日の調整ができるか)、サービスが今も続いているかを、申し込む前に確かめておくと安心です。
退職代行を使うなら、回数より先に「運営元」を確かめる
188回という数字を見て、「それだけ多くの人が使っているなら」と感じた方もいるかもしれません。ただ、利用された回数が多いことと、あなたにとって安心して任せられるかどうかは、別の話です。
退職代行は、運営元によってできることが変わります。一般的には、次のように分けて考えられています。
- 弁護士が運営:退職の連絡に加えて、会社との交渉や、未払いの残業代などの請求まで任せられる
- 労働組合が運営:団体交渉として、退職日や有給休暇の消化について会社と話し合える
- 民間企業が運営:基本は退職の意思を伝えるところまで。会社との交渉はできない
2026年8月には、大手の退職代行業者の元社長らが、弁護士法違反で有罪判決を受けました。報酬を得る目的で依頼者を弁護士にあっせんしたことが問われた事件で、退職代行というサービスそのものが違法と判断されたわけではありません。それでも、「どこが運営しているのか」を確かめる大切さが、あらためて見えた出来事でした。
「自分で言う」がどうしても無理なとき
私は、辞めると決めてから実際に動くまで、毎回時間がかかりました。常連企業と呼ばれるような職場ほど、辞めると言い出すこと自体が大きな壁になりやすいと思います。
頭がいっぱいで何も考えられないなら、退職代行に頼るのは逃げではありません。どれほどつらいかは、本人にしか分からないからです。頼るなら、会社と話し合いができる弁護士運営か労働組合運営のサービスから選んでください。
関連記事:退職代行、失敗しない選び方
心も体も限界なら、辞め方を考えるより先に、まず休むことを考えてください。
まとめ:辞める人が続く職場で、自分を責めなくていい
同じ会社から何度も、時には100回を超えて退職代行が使われているというデータは、「辞めたいのに言い出せない」と感じた人が、その職場に何人もいた可能性を示しています。
私がいた運送会社でも、1か月続かない人や、連絡なく来なくなる人が次々に出ていました。人がどんどん辞めていく職場で、しんどいと感じているのは、あなただけではないかもしれません。
もし今、自分の職場に似たようなサインを感じているなら、まずは「自分がおかしいわけではないかもしれない」と、一度立ち止まって考えてみてください。そのうえで、どうしても自分の口で言い出せないなら、運営元を確かめたうえで退職代行を使うことも、十分に現実的な手段です。
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