「もう無理かもしれない」。そう思いながら、今日も教室に向かっている先生は少なくないと思います。
クラスの子どもたちのこと、保護者への対応、終わらない事務作業、部活動。どれも途中で投げ出せないと分かっているからこそ、「辞めたい」と思う自分を責めてしまう。そんな方も多いのではないでしょうか。
私自身は、教員として働いた経験はありません。これまで不動産営業、運送、自動車工場、AI業界など、7回の転職を重ねてきた一人です。業種はまったく違いますが、「辞めたいのに言い出せない」「最後まで責任を果たさなければと、自分を追い込んでしまう」という感覚は、何度も味わってきました。今回は体験談ではなく、公的な調査やデータをもとに、教員ならではの事情を一つひとつ確認しながら、現実的な選択肢を整理していきます。
この記事では、教員の「辞めたい」が今どれくらい深刻な状況として表れているか、年度途中で辞めることは本当に難しいのか、そして言い出せない時にどんな選択肢があるのかを、順番に見ていきます。
「甘え」ではない。数字が示す教員の厳しい現実
まず伝えておきたいのは、「辞めたい」と感じるあなたの状態は、決して特別なことでも、甘えでもないということです。
文部科学省の「学校教員統計調査」の中間報告(2026年7月公表)によると、令和6年度に精神疾患を理由に離職した公立の小学校・中学校・高校の教員は1,319人で、過去最多になりました。前回の調査(令和3年度)より369人多く、内訳は小学校801人、中学校365人、高校153人です。
休職している人も多くいます。文部科学省の「公立学校教職員の人事行政状況調査」(令和6年度、2025年12月公表)では、精神疾患で病気休職した教育職員は7,087人で、全教育職員の0.77%でした。教育委員会が把握している休職の主な要因は、「児童・生徒に対する指導そのもの」が26.5%、「職場の対人関係」が23.2%、「校務分掌や調査対応など事務的な業務」が12.7%です。
この「離職1,319人」と「休職7,087人」は、別々の調査の数字で、対象も違います。数字を見るときは「どの調査の、どの時点の数字か」を意識しておくと安心です。
背景には、長時間労働の実態もあります。OECDの「国際教員指導環境調査(TALIS)2024」(2025年10月公表)によると、日本の教員の1週間あたりの仕事時間は、中学校で約55.1時間、小学校で約52.1時間で、参加国の中で最も長くなっています。中学校はOECD平均より約14時間長く、授業時間そのものは国際平均より短い一方、授業準備や部活動などの課外活動、事務作業といった授業以外の業務に多くの時間が割かれています。
さらに、文部科学省が2026年3月に公表した令和7年度の「教師不足」に関する実態調査では、教師の不足は始業日時点で4,317人、5月1日時点で3,827人でした。令和3年度(始業日2,558人、5月1日2,065人)と比べて、大きく増えています。人が足りない分、一人ひとりの負担が重くなりやすい状況です。
これだけの数字が示しているのは、「あなたが弱いから辞めたいと思っている」のではなく、「今の教育現場そのものが、多くの先生にとって厳しい状態になっている」ということです。
辞める前に、まず確認したい三つの道
「辞めたい」と思ったとき、選択肢は「このまま続ける」か「今すぐ辞める」かの二択だけではありません。実際には、間に段階があります。
一つ目は、休む選択です。公立学校の教員には、病気休暇や、その後の病気休職という制度があります。休める期間や、その間の給与の扱いは、自治体の条例などで決まっているので、所属の教育委員会や共済組合に確認してください。私立学校の場合は、学校の就業規則で決まっています。心身がすでに限界に近いと感じるなら、辞める決断を急ぐ前に、まず医療機関を受診し、休める制度があるかを確認することをおすすめします。
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二つ目は、異動や校務分掌の変更を相談する選択です。同じ学校に居続けること自体がつらいのか、教員という仕事自体が合わないのかによって、取るべき道は変わります。前者であれば、管理職に異動の希望を伝えることで状況が変わる可能性もあります。
三つ目が、退職です。ここで大事なのは、辞めることは「逃げ」ではなく、「自分の心身とキャリアを守るための選択肢の一つ」だということです。先ほどの学校教員統計調査の中間報告でも、定年以外で離職した15,540人の理由で最も多かったのは「転職(教育委員会への異動を含む)」の5,080人でした。教員を辞めて別の道に進む人は、決して少なくありません。
年度途中で辞めることは、本当にできないのか
「3月まで辞められない」という空気は、多くの学校に根強くあります。年度途中での退職は、後任や引き継ぎの問題から、現場に歓迎されにくいのが実情です。
ただし、制度上「年度途中では一切辞められない」と決まっているわけではありません。
公立学校の教員は地方公務員です。辞めるときは、辞職願を出し、任命権者(教育委員会)が退職を発令するという手続きになります。民間企業のように、民法の「申し出から2週間で終わる」というルールがそのまま当てはまるわけではありません。どのくらい前に申し出ればよいかや進め方は、自治体によって違うため、ここで一律に「何日で辞められる」とは言えません。
私立学校の教員は、学校と労働契約を結んでいます。期間の定めのない契約であれば、民法627条1項により、申し出から2週間で雇用契約は終了するとされています。ただし、1年ごとの契約など期間の定めがある場合は、途中で辞めるのに「やむを得ない事由」が必要になるなど、ルールが変わります。まずは自分の契約書と就業規則を確認してください。
いずれにしても、年度途中の退職を考える場合は、できるだけ早い段階で管理職に相談することが、現実的な進め方になります。もちろん、心身の状態がすでに限界で、引き継ぎを整える余裕すらないという場合は、「まず自分の心身を守る」ことを優先してかまいません。
どうしても言い出せない時に考える選択肢
「辞めたい」と伝えること自体が怖い。管理職との関係が悪化していて、直接話すのが難しい。そういう状況にある方もいると思います。
そうした場合の選択肢の一つに、退職代行があります。ただし、公立学校の教員の場合は、民間企業とは事情が違う点に注意が必要です。
公立学校の教員は地方公務員なので、退職は教育委員会の手続きによって決まります。また、一般の地方公務員には労働組合法が適用されないため、民間の労働組合が運営する退職代行が、民間企業と同じように団体交渉の権利を使えるとは限りません。公立学校の教員が退職代行を使う場合は、代理人として相談や交渉ができる弁護士が運営するサービスを選ぶのが安心です。
私立学校の教員であれば、民間企業と同じように考えられます。有給消化や退職日の調整まで任せたいなら、弁護士か労働組合が運営するサービスを選んでください。どちらの場合も、申し込む前に、公立か私立か、契約の内容はどうなっているかを伝えて、対応できるかを確認しておくと安心です。
また、職場の対人関係やハラスメントが背景にある場合は、教育委員会のハラスメント相談窓口や、こころの耳(厚生労働省の働く人のメンタルヘルスのポータルサイト)といった窓口に相談するという道もあります。私立学校の教員であれば、労働局の総合労働相談コーナーも使えます。退職を決める前に、一度こうした窓口に状況を話してみることで、見えていなかった選択肢が見つかることもあります。
辞めた後、教員経験はどう活きるのか
「教員を辞めたら、もう他の仕事はできないのではないか」と不安に思う方も多いと思います。ですが、教員として培ってきた力は、ほかの仕事にもつながるものです。
授業の組み立てや教材づくりの経験は、研修の企画や人材育成の仕事に。保護者対応で培った、感情的になりやすい相手との対話力は、カスタマーサポートや営業にも通じます。たくさんの業務を同時に回してきた経験は、調整力として評価されることもあります。
教育業界の中であれば、塾講師や教育関連の企業、私立学校など、これまでの経験を活かしやすい道があります。異業種であっても、人材、研修、営業、事務など、教員経験が活きる職種はあります。
ただ、辞めた直後は、心身ともに消耗していることが多いものです。すぐに転職活動を始めなければと焦る必要はありません。まずは心身を整えることを優先し、落ち着いたタイミングで、これまでの経験を一度棚卸ししてみることをおすすめします。
よくある不安・Q&A
Q. 年度途中で辞めたら、次の仕事は見つかりにくいのでしょうか。
定年以外で辞めた教員の理由で最も多いのは転職です。年度途中かどうかより、心身の状態や、これまでの経験をどう整理して伝えるかのほうが、転職活動には影響しやすいと考えられます。焦らず、まずは自分の状態を落ち着けることを優先してください。
Q. 退職代行は教員でも使えるのでしょうか。
使えるケースはありますが、公立学校の教員は地方公務員としての手続きがあります。公立の場合は弁護士が運営するサービスを、私立の場合は弁護士か労働組合が運営するサービスを選び、申し込む前に対応できるかを確認してください。
Q. 辞める前に、誰にも相談せずに一人で決めてしまってもいいのでしょうか。
一人で抱え込んだまま結論を出すと、後から「もっと別の道があったかもしれない」と感じてしまうこともあります。管理職や教育委員会への相談が難しい場合でも、家族や信頼できる同僚、外部の相談窓口に、まず「今の状況」を話してみることをおすすめします。状況を言葉にするだけで、気持ちが整理されることもあります。
Q. 辞めた後、収入面が不安です。すぐに次を決めないといけないのでしょうか。
心身が限界に近い状態で退職した場合、すぐに次の仕事を決めようと焦る必要はありません。ただし、公立学校の教員は公務員なので雇用保険に入っておらず、ハローワークの失業給付(基本手当)は受けられません。退職手当が失業給付の相当額より少ない場合に、その差額が支給される仕組みなどがあるので、教育委員会に確認してください。病気で休職中に退職する場合は、条件を満たせば共済組合の傷病手当金を退職後も受けられることがあります。私立学校の教員は雇用保険に入っているのが一般的で、失業給付の対象になります。
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Q. 年度途中で辞めると、同僚や子どもたちに迷惑をかけてしまう気がして、決心がつきません。
その気持ちを抱くこと自体が、あなたがこれまで真剣に向き合ってきた証だと思います。ただ、心身を壊してまで続けることが、結果として子どもたちや周囲にとって良い状態を生むとは限りません。できる範囲で引き継ぎを整えたうえで決断することと、自分を追い詰めてまで続けることは、別の話です。どちらを選んでも、あなたが悪いわけではありません。
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まとめ:一人で抱えず、まず誰かに話してみる
精神疾患を理由に離職する教員が過去最多になっているという事実は、今のあなたが感じている「辞めたい」という気持ちが、個人の弱さだけの問題ではなく、教育現場全体が抱える問題とつながっていることを示しています。
年度途中の退職は簡単なことではありませんが、「3月まで絶対に辞められない」と決まっているわけでもありません。休む、異動を相談する、辞める。その間には段階があり、どの道を選ぶにしても、まずは心身の状態を確認することが出発点になります。
直接言い出すことがどうしても難しいときは、弁護士が運営する退職代行、教育委員会の相談窓口、こころの耳のような相談先など、一人で抱え込まずに頼れる場所があります。
今日、今すぐに答えを出す必要はありません。まずは、誰か一人にでも「実は辞めたいと思っている」と話してみることから、始めてみてください。
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