辞めたい。でも、ボーナスをもらってから辞めたい。
そう思った自分に、少し罪悪感を覚えていませんか。「もらい逃げみたいで気が引ける」「そんなことを考える自分は薄情なんじゃないか」。そんなふうに感じている方も多いと思います。
私も同じでした。3年前、前職で「辞めたい」と思いながら、ボーナスが出るまでと約3ヶ月、辞めるのを先延ばしにしたことがあります。
結論から言うと、私はその選択をしてよかったと思っています。ただ、待っている3ヶ月はきつかったです。夜眠れなくなったり、仕事への意欲が完全になくなったりしました。そして、その後に私は適応障害の診断を受けることになります。
この記事では、「ボーナスまで待つ」という選択が法律的にどう扱われるのか、就業規則で何を確認すればいいのか、そして「待つべきか、待たないべきか」をどう判断すればいいのかを、私の実体験も交えながらお伝えします。
そもそも、ボーナスをもらってから辞めるのは非常識なのか
先に結論を言うと、ボーナスを受け取ってから退職すること自体は、一般的には問題視される行為ではありません。
賞与(ボーナス)は、法律で支給が義務づけられているものではなく、就業規則や賃金規程で会社が独自に定めているものです。その性質について、裁判例では「支給対象期間の勤務に対する賃金の後払いとしての性格を有するとともに、功労報酬的な性格も併せ持つ」と整理されています。
つまりボーナスは、これまであなたが働いた分の対価という側面が強いものです。「もらってから辞める」のは、権利の範囲内で自然な判断だと考えていいと思います。
また、労働者には「退職の自由」があります。民法627条では、雇用期間の定めがない場合、退職を申し出てから2週間が経過すれば雇用契約は終了するとされています。就業規則に「1ヶ月前に申し出ること」と書かれていても、実務上は民法の規定が優先されるという解説が一般的です(とはいえ、円満に辞めたいなら就業規則の定めに沿うのが望ましい、というのが多くの実務者の見解でもあります)。
罪悪感を持つ必要はありません。ただし、「タイミング」と「就業規則の中身」次第で、受け取れる金額が変わってくる可能性はあります。ここは冷静に確認しておく価値があります。
「もらえるはずのボーナス」が減る・消えるケースを知っておく
多くの会社の就業規則には、「支給日在籍要件」という条項があります。これは、賞与の支給日に在籍している人にしか賞与を支払わない、というルールです。
過去の裁判例では、この支給日在籍要件が就業規則などで明確に定められている場合、その条件を満たさない退職者に賞与を支払わなくても違法にはならない、と判断されたものがあります(ビクター計算機事件 東京地裁 昭和53年3月22日)。この考え方は最高裁でも扱われたことがあります(大和銀行事件 最高裁 昭和57年10月7日)。
一方で、就業規則に支給日在籍要件の定めがなければ、話は変わってきます。算定対象期間をきちんと勤務していれば、支給日より前に退職していても、賞与を請求できる可能性があるとされています。
また、「退職予定者だから」という理由でボーナスを大きく減額するようなケースについても、裁判例があります。東京地裁平成8年6月28日判決では、退職予定者への減額について一定の目安が示されたことがありますが、これはあくまで一つの判例が示した目安であり、絶対的な基準ではありません。就業規則に減額の定めがあることが前提ですし、ケースによって判断は変わります。「何割までなら絶対に大丈夫」というような断定はできない、というのが実際のところです。
もう一つ知っておきたいのは、労働基準法16条です。この条文は、労働契約の不履行について会社があらかじめ違約金や損害賠償額を予定する契約を結ぶことを禁止しています。たとえば「辞めるならボーナスを全額返せ」というような取り決めを事前にしていた場合、これに抵触する可能性があります。ただし、現実に生じた損害について会社が賠償を請求すること自体まで禁止しているわけではない、とされています。このあたりは個別の事情によるところが大きいので、心配な場合は労働基準監督署や弁護士など専門家に相談するのが安全です。
就業規則で必ず確認しておきたい4つのポイント
「待つべきか」を判断する前に、まず自分の会社の就業規則・賃金規程を確認しておくことをおすすめします。見るべきポイントは主に4つです。
- 支給日在籍要件があるか:「支給日に在籍する者に支給する」といった一文があるかどうか
- 算定対象期間はいつからいつか:ボーナスは「いつからいつまでの働きに対する対価」なのかを確認する
- 退職予定者への減額規定があるか:そうした規定が明記されているかどうか
- 有給消化中の扱いはどうなっているか:退職日までの間、有給休暇を消化していても「在籍」とみなされるのが一般的ですが、支給額そのものは会社の裁量に委ねられている部分もあります
就業規則を読み込むのは面倒だと感じるかもしれません。私自身、当時は「読んでもよくわからない」と思っていました。それでも、人事や総務に「賞与規程を確認したいので見せてほしい」と伝えるだけでも、状況はだいぶクリアになります。聞くこと自体は、まったく責められる行為ではありません。
待つ場合の逆算スケジュール例(夏・冬)
「待つ」と決めた場合、いつ退職の意思を伝えるかは重要なポイントです。目安として、次のようなスケジュール感が一般的によく紹介されています。
| 時期 | 支給時期の目安 | 退職を伝えるタイミングの目安 | 退職日の目安 |
|---|---|---|---|
| 夏ボーナス | 6月下旬〜7月中旬 | 支給確認後、2週間〜1ヶ月程度 | 8月末〜9月末 |
| 冬ボーナス | 12月中旬前後 | 支給確認後、2週間〜1ヶ月程度 | 2月末〜3月末 |
これはあくまで一般的な目安であり、会社の就業規則や引き継ぎの状況によって変わります。「支給されたことを確実に確認してから伝える」のが基本ですが、支給日より前にどうしても伝えなければならない事情がある場合は、就業規則の在籍要件・減額規定を確認したうえで判断することをおすすめします。
金額の相場は、調査によってまったく違う
ボーナスの金額感については、調査によってかなり幅があります。
| 調査 | 対象 | 2025年夏季賞与の平均 |
|---|---|---|
| 厚生労働省(毎月勤労統計調査) | 事業所規模5人以上 | 426,337円(前年比2.9%増) |
| 経団連 | 大手247社(原則従業員500人以上) | 97万4,000円(前年比3.44%増) |
| 帝国データバンク | 全国1,227社 | 45.7万円(前年比1.8万円増) |
経団連の97万4,000円は、比較可能な1981年以降で最高額を7年ぶりに更新した数字です。ただし、対象が大手企業に限られています。厚労省の数字も「賞与支給のある事業所」に限定した平均で、全事業所を対象にすると360,681円まで下がります。
調査によって対象企業の規模構成が異なるため、単純に比較はできません。「みんなこれくらいもらえる」と一律に考えず、勤務先の規模や過去の支給実績で考えるのが実態に近いと思います。
「待つ」と「待たない」、判断の分かれ目
ここまで「待つ」前提で話してきましたが、待つことが正解とは限りません。
私は3ヶ月待ちました。その間、かなりつらかったです。夜になっても眠れなかったり、平日の日中も気力が出なくなったりしていました。それでも結果的にボーナスは受け取れましたし、今振り返っても「待ってよかった」と思っています。
ただ、正直に書いておくべきことがあります。その後、私は適応障害の診断を受けました。 あの3ヶ月の不眠や意欲の喪失は、今思えばすでに限界のサインだったのだと思います。ボーナスを受け取れたことと、心身がすり減ったこと。その両方が、あの3ヶ月の結果でした。
だから「待てば必ずうまくいく」とは言えません。待っている間に心身がすり減ってしまうリスクは、私自身が身をもって経験しています。
判断の目安として、私は次のように考えています。
- 眠れない・食欲がない・涙が出るなどの症状が2週間以上続いている → 待つことより、まず心身を守ることを優先していい
- 「あと1〜2ヶ月」という具体的な見通しが立っている → 待つという選択肢も現実的
- 待つ理由がボーナスだけで、日々の負担が限界を超えている → 金額よりも、今の自分の状態を信じていい
お金は後からでも何とかできることがあります。でも、心身を大きく崩してしまうと、回復にはもっと長い時間がかかります。私は回復までに、想定よりずっと長い時間がかかりました。
「待つ・待たない」に正解はなく、今の自分の状態を基準に決めていいと、私は思います。
それでも言えないときの選択肢
「待つと決めたけど、いざ支給後に退職を切り出すのが怖い」「今すぐにでも辞めたいけど、自分では言い出せない」。そういう場合、退職代行サービスという選択肢もあります。
ただし、退職代行にも運営元の違いがあり、できることが大きく異なります。民間企業が運営するものは、あくまで「退職の意思を会社に伝える」ことしかできません。有給消化の交渉や未払い賃金の請求といった、法律に関わるやり取りは、弁護士法72条の関係で、弁護士または団体交渉権を持つ労働組合にしか認められていません。
ボーナスの支給条件や減額について会社と話し合う必要が出てくる可能性を考えると、選ぶなら弁護士運営か労働組合運営のサービスが安心です。
料金の目安としては、民間企業の運営で2万円〜3万円程度、労働組合運営で2万5,000円〜3万円程度、弁護士運営で5万円〜10万円程度とされています。弁護士運営は、あらゆる交渉に加え、未払い賃金の請求などの法的なトラブル対応まで任せられる分、他の運営形態より高めの料金設定になっています。ただし事務所や案件の内容によって幅があるため、依頼前に総額の見積もりを確認することをおすすめします。
よくある不安・Q&A
Q. 支給日の直前に退職を伝えたら、ボーナスは減らされますか?
就業規則に減額規定がなければ、原則として減額される理由にはなりません。ただし規定がある場合は会社の裁量に委ねられる部分もあるため、一概には言えません。まずは就業規則を確認するのが確実です。
Q. 有給消化中でもボーナスはもらえますか?
退職日を迎えるまでは在籍している扱いになるのが一般的なので、支給日在籍要件は満たしやすい状況にあります。ただし、支給額自体は会社の裁量による部分もあるため、「有給消化中だから減額」というケースがまったくないとは言い切れません。
Q. 「ボーナスを返せ」と会社に言われたらどうすればいいですか?
就業規則に返還や減額に関する明確な定めがない限り、応じる義務はないとされるのが一般的な考え方です。ただし、あらかじめ違約金のような取り決めがあった場合は労働基準法16条との関係も出てきます。個別の事情によるところが大きいので、労働基準監督署や弁護士など専門家に相談することをおすすめします。
Q. 契約社員や公務員でも同じルールですか?
契約社員や公務員は、就業規則や条例など適用されるルールが正社員と異なる場合があります。この記事の内容がそのまま当てはまるとは限らないため、ご自身の雇用形態に応じたルールを個別に確認することをおすすめします。
まとめ:今、限界を感じているなら
ボーナスをもらってから辞めるのも、今すぐ辞めるのも、どちらも間違いではありません。私は3ヶ月待って、ボーナスは受け取れました。それ自体は後悔していません。
ただ、その3ヶ月で心身がすり減り、その後に診断を受けることになったのも事実です。あのとき「もう待たなくていい」と自分に言えていたら、何か違っていたかもしれない。そう思うこともあります。
大事なのは、就業規則で事実を確認したうえで、「今の自分の状態」を基準に決めることだと思います。もし今、夜眠れない、食事が喉を通らない、そんな状態が続いているなら、ボーナスよりも先に、まず休むこと・誰かに相談することを選んでいいはずです。
どちらを選んでも、あなたの判断です。焦らず、自分の心と身体の声を、一番に聞いてあげてください。
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